実は少ない強豪校サッカー部の女子マネージャー
高校スポーツの花形と言える女子マネージャーだが、サッカーの場合、実は強豪校ほど不在であることが多い。
昨年度の高校サッカー選手権出場校で、女子マネージャーがいなかったチームは手元集計で48校のうち17校。ベスト8になるとそのうち6校は女子マネージャーがいなかった。
大阪府の履正社高校サッカー部の女子マネージャーたち
特に強豪と呼ばれる私立高校に、不在のケースが多いのが特徴だ。東山高校(京都府)や東福岡高校(福岡県)のように男子校もあるが、私立にマネージャーがいない理由はいくつか考えられる。
一番はカリキュラムの違いだ。サッカー部が強化クラブに指定される学校では、部員はスポーツクラスに在籍し、授業の一環としてスポーツに取り組むケースが多い。授業時間もスポーツクラスが通常の授業を終えたあとに、進学クラスなどは受験対策の授業を行なうこともある。そうした時間的な制約により、生徒が希望しても現実的にはマネージャーとして活動するのは難しい。
古くからの伝統で部内恋愛を避けるため、マネージャーを募集していない学校も少なくない。「マネージャーがいるチームと対戦する際は絶対に負けられない」と燃える選手がいるのは、高校サッカーの現場でよく聞かれる"あるあるネタ"だ。
だが、近年は強豪校が新規で女子マネージャーを受け入れるケースが、少しずつ出始めている。
その一つが、FW林大地(シント=トロイデン)やFW町野修斗(湘南ベルマーレ)など日本代表選手を輩出する履正社高校(大阪府)だ。普通クラスや進学クラスの生徒は勉強に専念してほしいというのがこれまでの学校の考えで、「強化クラブにマネージャーを採用する概念がなかった」(平野直樹監督)。
しかし、今年からは自らがやりたいことを追求していく自主性や主体性に重んじるカラーを強く推奨するようになり、力量や熱意があれば強化クラブに入部できるようになった。
「一般生徒がサッカー部に入れる可能性があるのに、女子でマネージャーをやりたいと言っている子が、なぜダメなの? という話。希望者がいれば男性マネージャーも受け入れる」
そう考える平野監督は、さっそくマネージャーへの門を開き、「将来は先生になってサッカーに携わりたい」と話す北野美微さんら3名がチームに加わった。
マネージャーの仕事は多岐に渡る
「ただの水汲みではなく、マネジメントをやってもらう。プレゼンテーションやパソコンの操作がうまくなったり、社会に出て役立つ力を身につけてほしい」(平野監督)というのが、サッカー部としての考え方だ。
彼女たちの仕事は多岐に渡る。近年、SNSやホームページでの情報発信に力を入れるチームが増えており、履正社もそうしたチームの一つ。各種SNSとチーム公式アプリの運用が彼女たちの仕事だが、「普段から、ずっとスマホをイジっているので慣れています」(北野さん)というZ世代は、テキパキこなしていく。
更新の際に使用している写真も、彼女たちが撮影したものだ。チームの仕事が増えている現代の部活動において、マネージャーの重要度は以前よりも増している。
公休を貰って部活動に参加する場合もあり、授業に出られない分は周りから遅れないよう自主的に勉強しなければいけない。勉強と部活の両立は簡単ではないが、部活を通じてスタッフや保護者、サッカー関係者など多くの大人と接するのは、プラスの経験だ。
「部活を通して、挨拶とか人間関係、社会のことを学んだ。履正社高校サッカー部のマネージャーという肩書を背負っているから、ちゃんとしないといけないと思います」(北野さん)
新たにマネージャーを受け入れたもう一校が、浦和レッズのFW江坂任らを輩出してきた兵庫の強豪、神戸弘陵学園高校だ。元々は男子校だったが、2014年に体育クラスと進学クラスが男女共学化。2020年からは全クラスで女子生徒の受け入れがスタートした。
女子生徒の増加に伴い、サッカー部でも女子マネージャーを募集したこともあるが、以前は集まらなかった。希望者が出てきても平日のみの活動を希望するなど熱意のある生徒はおらず、採用には至らなかった。
そうしたなか、昨年春に入学してきたのが平井里青さんだ。中学時代は陸上に励み、サッカーには一切興味がなかったが、テレビで目にした神戸弘陵が選手権で奮闘する姿に心を惹かれたという。
「近所に、こんなに高校生が輝ける場所があるんだと知って、この学校に行きたいと思いました」(平井さん)
もともとは積極的に行動できるタイプではなかったが、神戸弘陵に女子マネージャーが不在だったことを知ったうえで入学。入学式の翌日に谷純一監督に直談判し、晴れて初代マネージャーとなった。
マネージャーもサッカーを通して人として成長
だが、前例がない仕事を進めるのは簡単ではない。
「先輩がいないのでルールがないし、(部員がすべてをこなすので)仕事もほとんどない。最初はほんまに何をしていいかわからなかった。大丈夫かな? 本当に3年間続けられるのかな? と思いましたけど、必ず3年間続けると谷監督と約束したし、自分が決めたことだから、簡単には辞められないと思っていました」(平井さん)
与えられた記録係の仕事も、ルールを全く知らないまま入部したため、スタッフがつきっきりで教えなければいけない。昨年は「オフサイドって何ですか?」と口にする現場に筆者が出くわしたこともあった。奥手な性格もあり、部員との距離も縮まらず、自らが思い描いていたマネージャー生活とはほど遠かった。
だが、2年目を迎えた今年は成長の跡がうかがえる。
「せっかくマネージャーをやらせてもらっているのに、何もできないままじゃダメだなって思ったんです。試合で会う他チームのマネージャーはすごく仕事ができるので、こんな風にならないとダメだなとも思いました」(平井さん)
春からは後輩が加わり、先輩としての自覚が高まったのも大きい。ただ仕事を待っているのではなく、グラウンドを歩き回って自らの仕事を見つけ出そうとする姿勢も出てきた。弘陵きっかけでサッカーという競技自体が好きになり、オフがあれば勉強のためにJリーグや他チームの試合を観に行くようにもなったそうだ。
「もともと人見知りだったんですけど、サッカー部に入っていろんな方と関わることができた。コミュニケーション力がついたというか、自分から話に行けるようになりました」。そう話す平井さんは、将来はサッカーの仕事に関わりたいと考えている。
「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にするスポーツだ」。日本サッカー界の父と呼ばれるデッドマール・クラマー氏の言葉だが、プレーヤーだけに当てはまる言葉ではないのかもしれない。高校サッカーとの出会い、サッカー部のマネージャーの経験が人見知りだった少女を変えつつある。
彼女たちのようにサッカーを通じて成長する生徒は数多くいる。減少傾向にあるサッカーファミリー拡大の意味でも、これからマネージャーの存在はより重要になっていくはずだ。
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鹿児島城西のMF芹生は、身体の使い方が上手く、パスセンスも高い司令塔だ。写真:松尾祐希 今年のチームは攻撃陣にタレントが揃う “半端ない”FW大迫勇也(神戸)を擁して選手権で準優勝を果たしてから15年。鹿児島城西が虎視眈々と復権の機会を狙っている。 鹿児島の高校サッカーと言えば――。2000年代の前半までMF遠藤保仁(磐田)やMF松井大輔(YS横浜)らを輩出した鹿児島実がその名を轟かせた。 近年は神村学園が躍進し、昨年度は福田師王(ボルシアMG)やMF大迫塁(C大阪)を擁してベスト4まで勝ち上がったのは記憶に新しい。インターハイは6年連続、冬の選手権も昨年度まで6年連続で出場しており、今季から2種年代最高峰のU-18プレミアリーグ高円宮杯に参戦するまでになっている。 一方で鹿児島城西は前述の通り、2008年度の選手権で日本一にあと一歩まで迫り、以降も神村学園と切磋琢磨し...
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