前橋育英は夏冬連覇の偉業達成なるか? インハイ優勝後に露わになった“危機感”と乗り越えるべき課題
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13年ぶりに夏の王者に輝いた前橋育英だが、冬の日本一を見据えるなかで試練のときを迎えている。写真:松尾祐希


群馬の強豪が真の王者を目ざし、リスタートを切る


夏の山を登るよりも、冬の山を登るほうがはるかに難しい。それは登山に限った話ではなく、高校サッカーもそうだ。夏のインターハイを制したとしても、続けて冬の選手権で日本一を獲るのは簡単ではない。

1997年度の東福岡(福岡)や、昨年度の青森山田(青森山田)も、追われるプレッシャーをはね除け、夏冬の連覇を成し遂げている。夏の王者で終わるか。それとも冬も制して語り継がれるチームになるか。13年ぶりにインターハイを制した前橋育英(群馬)は、真の王者を目ざし、新たな目標に向かってリスタートを切っている。

7月30日、前橋育英は徳島の地で大旗を手にした。山田耕介監督の恩師である故・小嶺忠敏監督が昨季まで率いていた、長崎総科大附(長崎)との1回戦から思うような試合運びができなかったが、尻上がりに調子を上げ、勝負強さを発揮。帝京(東京)とのファイナルでは、後半のアディショナルタイムに10番を背負うFW高足善(3年)が均衡を破る決勝ゴールを挙げ、1-0の勝利。試合後には指揮官の身体が徳島の空に舞った。

あれから2週間。チームは夏の王者としてフェスティバルに参戦したが、満足できる結果と内容を残しているとは言い難い。
 
8月6日から行なわれた和倉ユースサッカー大会ではまさかのグループステージ敗退。全国各地の強豪校やJクラブの下部組織が参戦したコンペティションで、日本航空(山梨)には3-0で勝利したが、日大藤沢B(神奈川)、履正社(大阪)に0−1で敗戦。17位~32位トーナメントでも興國(大阪)に1-3で敗れるなど、不本意な成績で石川の地を後にしている。

「もう1個上のプレッシャーを覆す余裕がまだない」(主将・MF徳永涼/3年)と、反省の弁が口に出るほど思わしくなかった。大会後は前橋にあるグラウンドに戻り、トレーニングを再開した夏の王者にとって、試練のときを迎えているのは確かだろう。
 
山田監督も危機感を覚えており、筆者が8月中旬に学校に訪れた際も、チーム作りに細心の注意を払いたいと話していた。

「2009年度しか夏は優勝していない。そういう経験をしていないし、あのときも冬の選手権は1回戦で負けている。だからこそ、ふわっとした雰囲気にならないようにしないといけない」

ただ、反省を踏まえ、選手たちも練習から緊張感を高めることに注力している。紅白戦ではピリッとした雰囲気があり、選手からは熾烈なポジション争いを勝ち抜くという強い意志も見て取れた。

懸念点は次期リーダーの不在

例えば、アタッカー陣ではインターハイ後に主力のFW小池直矢(3年)が不在。オランダの強豪・フェイエノールトのU-17チームでトレーニングを行なっており、1か月ほどチームを留守にしている。そのため、選手たちはここぞとばかりに、並々ならぬ意欲を持って各自がアピールに努めていた。

インターハイの決勝でゴールを決めたエースの高足はもちろん、確固たる地位を築いているとはいえない選手たちが精力的にプレーを続けている。エアバトルに強いFW山本颯太(3年)や俊敏性に長けたMF堀川直人(3年)も紅白戦で上々のプレーを見せており、とくに堀川はコーチ陣が思わず「お!」と声を挙げるようなシュートを叩き込んで存在感を示した。

夏のフェスティバルで苦戦を強いられたなかで、選手たちが新たな刺激を受けてさらなる高みを目ざしているのはチームにとってプラスの材料だろう。

だが、和倉ユースで残した課題が解決されたわけではない。それは徳永、MF根津元輝(3年)に続くリーダーがチームにいない点だ。

今年のチームはピッチ内外において個性豊かな面々が揃っており、彼らをキャプテンの徳永がまとめ、副キャプテンの根津がサポートする形を取ってきた。その一方で徳永と根津に頼りすぎる部分があり、先の和倉ユースではチームの課題を露呈。徳永と並んでチーム内で影響力を持つ根津が、大会前から負っていた怪我のリハビリに専念するため不在となったからだ。

逆に言えば、他の選手がリーダーシップを発揮する絶好の機会でもあった。選手たちも今まで以上に自覚を持ってプレーする意識を持っていたが、それでも徳永がひとりでチームをまとめる状況に。徳永自身もメンバーの意識を変える機会になると考えていたが、思うようにいかず頭を悩ませていたという。

「自分が言わないでやったほうがいいと感じる試合もあった。でも、口にしないで『どうなんだろう?』と思うこともあったんです」

選手たちもこのままでいいとは思っていない。積極的に意見交換ができるようにするべく、そうした存在が一人でも多く出てくるべきだと考えている。幸いにも和倉ユースから戻ってきた後のトレーニングでは選手たちの自覚が高まり、ポジティブな声が出るようになってきた。改善の余地はあるが、継続して取り組んでいけば、チームがより高いレベルに昇華するはずだ。

ほかのチームから追われる立場となり、プレッシャーも今までとは比べモノにならないだろう。だが、その壁を乗り越えなければ、夏冬連覇の偉業は達成できない。ふたたび険しい山を登り始めた“前育”の挑戦はまだ始まったばかり。冬に向け、今は一歩ずつ前に進んでいく。

取材・文●松尾祐希(フリーライター)
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