西武台はいかにして浦和南の堅陣を打破したのか。期待がかかる埼玉県勢、40年ぶりの選手権制覇
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ボール支配で圧倒するも、絶好機はなかなか掴めない

 

 

 第100回全国高校サッカー選手権埼玉大会は11月14日、埼玉スタジアムで西武台と浦和南による初顔合わせの決勝が行なわれ、西武台が延長の末1-0で競り勝ち、11年ぶり4度目の優勝を遂げた。

 

 西武台は前半から、ボールを握る時間や相手陣営に攻め込む回数で優位に立ち、シュート数でも6本対4本と上回っていたが、決定打はむしろ浦和南のほうが多かった。鋭いクロスを供給しても、絶好のシュートを打っても、相手の素早い寄せとブロックに遭ってゴールを割れないでいた。

 

 ただひとり1年生からレギュラーで主将のDF原田蓮斗(3年)は、「最後のところでゴール前に(パスが)入らなかった。浦和南は身体を張った守りが徹底していて、本当にきつい試合だった」と振り返った。

 

 前半15分、左CKからMF坂本空翔(3年)が合わせたヘディングシュートはバーに助けられ、19分の奥村青葉と大里直也の両3年生MFに打たれた強烈なボレーシュートも、DFのクリアと枠外で事なきを得た。DF戸部悠太(3年)が狙った追加タイムの40メートルを超える右FKは、GK淺沼李空(3年)が辛くもパンチングでCKに逃れた。

 

 西武台の大きなチャンスは15分、逆襲・速攻からMF和田力也(2年)が長い距離を運び、預かったFW細田優陽(3年)が放ってGKに捕球された1本くらいだった。

 

 後半に入ると、ますますボール支配率で西武台が圧倒。持ち味の速くて鋭いサイドアタックから好機を広げ、初戦の2回戦から4試合連続無失点で決勝に駆け上がった浦和南の堅陣を破壊しようとした。だが決定的な得点機はアディショナルタイムの1度だけ。細田が強シュートをお見舞いしたが、GKとDFに立て続けて阻止された。

 

 就任35年目を迎えた守屋保監督は、「土台を積み上げてきているから浦和南は簡単には崩れない。あそこまでチームを引き上げる指導力はすごい」と敵将・野崎正治監督の“怖さ”をあらためて思い知り、手練手管を使って戦況打開を試みた。

 

殊勲の安木は「大一番で得点したのは初めてなので嬉しい」

 

 武南との準決勝で2トップの一角として先発し、1得点したFW松原海斗(3年)を後半9分に送り込み、左の2列目から進撃させた。それまでのアンカー体制から、38分にMF吉野光(3年)を投入し、2ボランチにしてこぼれ球の回収に努めた。

 

 極めつけの策は左SB安木颯汰(3年)が、自ら判断してポジションを前方に移したことだ。そうして延長戦の後半7分、MF丸山実紀(3年)が右スローインのボールを運んで、絶品クロスを送った。安木がゴール前に飛び込んでヘッドで合わせ、左隅に決勝点をねじ込んだのだ。

 

「ゴールを狙うために上がっていたら、目が合ったわけではないけど、丸山からドンピシャのクロスが来ました。大一番で得点したのは初めてなので嬉しい」

 

 笑顔が絶えないヒーローと丸山は、中学時代から同じクラブチームの同僚とあり、出色のクロスと豪快なヘッドがあうんの呼吸からビクトリーゴールをもたらした。

 

小さくない効果をもたらした、元日本代表監督の招聘

 

 PK戦に備えて蹴る順番を決め、GKを交代しようとした矢先の決勝点だった。

 

 2月に還暦を迎えた守屋監督は、タイムアップの笛が鳴った瞬間、テクニカルエリアで指示を出し続けた教え子でもあるOBの関根雄太コーチらと抱き合って大喜び。「(私が監督在任中の優勝は)もうないかなと思っていた」と言って笑わせると、「スタッフの総力を結集した末の優勝です。去年から横山さんにアドバイスをいただいたことも、我々にしたら指導のあり方がとてもプラスになった」と説明した。日本代表とJリーグ・浦和レッズの監督を務め、メキシコ五輪銅メダリストの横山謙三氏をアドバイザーとして招請したことも大きかったそうだ。

 

 関東王者として臨む今大会は、40年ぶりとなる埼玉県勢の優勝が期待される。守屋監督は「その景色が見えるところまで近づきたい」と言った。

 

 11月14日は県民の日で、今年は埼玉が誕生して150周年。そんな記念日に第100回大会を制したのだから、縁起の良さはこの上ない。

 

取材・文●河野 正

 

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