『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:史上最強への挑戦状(青森山田高)
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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 

 それぞれの頬を自然と伝った涙と、溢れんばかりにこぼれた笑顔に、常に勝利を義務付けられているプレッシャーと、それからほんの一瞬だけでも解き放たれた充実感が、交錯する。あまりに強く、あまりに堂々としているがゆえに、時折忘れてしまいそうになるが、彼らはこれから青年に移ろおうとしている10代の少年たち。背負っているものの大きさと重さは、周囲から想像しようもない。

 

「まずは一冠を獲れたので、そこは嬉しい気持ちを噛み締めながら、残り二冠に向けて気持ちを切り替えてやりたいですね。ここからもちろん相手もレベルアップしてきますし、自分たちもレベルアップするので、また新しい青森山田を見せていけたらいいなと思います」。

 

 チームの象徴。キャプテンのMF松木玖生(3年)は決勝の試合後、既にこう語っている。インターハイ。高円宮杯プレミアリーグ。高校選手権。史上初の“三冠”獲得に向けて、まずは一冠を手にした2021年の青森山田高(青森)。最強感を漂わせるチームが辿ってきたこの半年間は、襲い掛かる不安を積み重ねる自信でかき消す日々の、繰り返しだった。

 

 3月。チームは守備に不安を抱えていた。前年度のチームから、GKも含めた守備陣は全員が総入れ替え。松木やMF宇野禅斗(3年)、MF小原由敬(3年)、FW名須川真光(3年)など、中盤より前には高校選手権でもレギュラーとしてプレーした選手が揃う中、最終ラインの経験不足は否めない。

 

 センターバックを任されたDF丸山大和(3年)は「まずはスタメンを取って、今の目標であるプレミア、インターハイ、選手権と三冠を獲るのが目標ですね」と意気込みつつ、ほとんどトップチームの試合に関われなかった2年間を思い浮かべ、こう語っていた。

 

「ここまでは辛いことが本当に多かったので、その想いをこの1年間にぶつけたいと思います。辛いことがあったらチームで乗り越えるのが、このチームでやるべきことなので、それも継続していきたいですし、自分もスタメンとしての自覚や覚悟はあるので、しっかり自信を持ってやっていこうと思います」。

 

 実際に時之栖チャレンジカップでは、静岡学園高(静岡)に4失点を喫して敗れ、サニックス杯でもサガン鳥栖U-18(佐賀)やサンフレッチェ広島ユース(広島)といったプレミア勢には試合時間内で勝ち切れず。決して盤石とはいえない状況で、2年ぶりのプレミアリーグへと向かうことになった。

 

 4月4日。浦和駒場スタジアム。アウェイでの開幕戦に挑んだ青森山田の選手たちは、笑顔でピッチから引き揚げてくる。4-0と浦和レッズユース(埼玉)相手に快勝。この試合では“17番”と“16番”、2人のニューカマーが躍動した。

 

 “17番”はFW渡邊星来(3年)。近年は1トップを敷いていたチームが、この男の台頭で2トップへのシフトを決断したぐらいの成長株。プレミアデビューとなった開幕戦で、いきなり2ゴールを挙げて存在感を発揮すると、以降も名須川との強力2トップがプレミアの舞台を席巻していく。

 

 “16番”はMF田澤夢積(3年)。昨年からのレギュラー、小原のコンディション不良で巡ってきたスタメンのチャンスに、こちらも鮮やかなゴールで応えてみせる。「自分が左サイドでどんどんアピールして、スタメンを奪ってやるんだというくらいの気持ちでやっていました」と語った田澤は、この試合を機に定位置を奪取。攻撃のキーマンとして着実に成長を遂げていくことになる。

 

 試合後。黒田剛監督の言葉も印象深い。「ずっと胃がキリキリして痛いんだけど(笑)、もちろんそれは緊張感でもあるし、我々がどれくらいやれるかは未知数で、不安要素はいっぱいあるんだけど、それを十分に楽しみながら、まずやってきたこと、積み上げてきたこと、習得してきたことを出すことだけをテーマに掲げてやったので、ここから局面のクオリティとか精度は試合ごとに上積みしていけるのではないかなと思いますけどね」。

 

 これだけ経験のある名将でも、シーズンのスタートは、胃がキリキリして痛むような緊張と不安を抱えながら歩み出す。この大きな1勝を得た青森山田は、15得点無失点という凄まじい数字を残して、チームとしても初の開幕3連勝を達成。周囲に強烈なインパクトを与えることに成功する。

 

 4月25日。プレミアEAST第4節。横浜F・マリノスユース(神奈川)戦を終えたディフェンスリーダーのDF三輪椋平(3年)は、その週の練習で起きたことを明かす。「今週の練習の中で過信というか、3連勝したのでできていると思っていた自分たちがいて、監督からも『練習がすべてなのに、練習から100パーセントでやれなかったら、試合で結果が出る訳ない」と厳しく言われました」。

 

 指揮官はその理由をこう語る。「経験の中から失点ゼロで行っていると、アップダウンの所、カバーとか修正の所が少しずつルーズになってくるものだから、そこをもう1回きちんと初心に戻ってやろうよという所ですね」。連勝しているからこそ、無失点だからこそ、選手たちを引き締めた結果が、オウンゴールで初失点こそ許したものの、4-1の完勝。“慢心”すら入り込む隙がない。

 

 GKの沼田晃季(3年)も、格段に安定感を増しつつあった。この日の失点シーンはややもったいない印象もあったが、それまでの3試合で彼のファインセーブが完封勝利に繋がっていたことも事実。春先に比べて声が良く出るようになったことに加え、やはり試合に出続けることで“青森山田の守護神”という雰囲気を纏ってきていることも、頼もしい。

 

「今年は守備がカギになるとずっと言われていた中で、春の遠征では監督に言われていることのレベルも低くて、『このままだったらプレミアで全敗してもおかしくない』という話をされて、そこからバックライン中心に話し合って、『本当に山田のやるべきことを徹底してやれば絶対にゼロで行ける』と信じてやってきたことで、4人の連携も本当によくなってきたと思います」(三輪)。リーグ4試合でわずかに1失点。懸念材料だったはずの守備は、あっという間に今年もチームの強みに進化しつつあった。

 

 5月23日。プレミアEAST第7節。無敗同士の首位攻防戦となった清水エスパルスユース(静岡)戦。先制しながら、いったんは追い付かれたものの、MF藤森颯太(3年)と松木のゴールで3-1と勝利。開幕7連勝を飾り、首位をがっちりキープする。昨年はジョーカー的な役割を果たしていた藤森も、今年は完全なメインキャスト。さらに、彼には心に秘めている想いがあった。

 

「こうやって青森県内の選手が、青森山田で戦うということは、やっぱり青森でサッカーをしている子供たちに元気や勇気を与えると思いますし、自分の名前を県内や全国に響かせていけば、もっともっと『サッカーってこういう魅力があるんだな』って子供たちにも思ってもらえるはずなので、そういう意味では『自分がやってやろう』という意識は持っています」。スタメンで青森県出身なのは彼と田澤の2人だけ。自分の背中を見せることが、地元の子供たちの未来へ繋がるという想いを背負って、藤森はピッチに立っている。

 

 不動の右サイドバックは、山梨から単身で青森へとやってきたDF大戸太陽(3年)。まだディフェンスに転向して2年目だが、もうメンタリティは守備者のそれだ。「ここまで2失点でも自分たちは悔しくて、やっぱり無失点で全部行きたいという気持ちが一番なので、今日の失点も自分がもうちょっと寄せられる所がありましたし、もっと山田でやるべきことを徹底してやれば、もっと失点は少なくなるんじゃないかなと感じています」。身体の強さはチーム屈指。攻守に貢献できる大戸の存在が、右サイドに太い芯を通している。

 

 指揮官も「ロングスローも投げられるし、ヘディングも負けなくなってきたし、アイツが成長してくれたのは大きいかな」と名指しで言及したのが左サイドバックのDF多久島良紀(2年)。チームただ1人の2年生レギュラーは、その圧倒的な飛距離と精度を誇るロングスローが目立つものの、堅実な守備対応も際立っている。そもそもはファン・ダイクに憧れているようにセンターバックが本職だが、両サイドバックもこなせるユーティリティ性も含めて、今年のチームには欠かせないキャストの1人となっている。

 

 インターハイ予選を制し、全国出場を決めてから、チームは難しい時期を過ごしていた。プレミアEAST第8節で、柏レイソルU-18(千葉)にホームで初黒星を突き付けられると、続くFC東京U-18(東京)との一戦も、何とか追い付く形でのドロー。前線の名須川を欠く中で自信を持っていた攻撃陣に停滞感が生まれたが、そのタイミングがグループのさらなる成長を促したと、黒田監督は捉えていた。

 

「逆にあの期間が凄く良かったというか、1人欠けることの重要性も認識できたし、その時に攻撃のパターンを失ってしまうことも見えたし、その分だけサブの選手が凄く成長する機会もあったので、そこは逆にポジティブに捉えながら、いい感じにチームを強化できてきたのかなと思います」。7月末の和倉ユース大会でも、大津高(熊本)や東山高(京都)、流通経済大柏高(千葉)を撃破して優勝を達成。再び自信と手応えを携えて、真夏の福井に乗り込むことになる。

 

 絶対的な優勝候補は、絶対的な力を見せ付ける。1回戦屈指の好カードと目されていた、長崎総合科学大附高(長崎)戦を3-0で制すると、2回戦の初芝橋本高(和歌山)戦ではなんと8ゴールを奪っての大勝。凄まじい数字のインパクトを残して、2年前のチームも敗れた青森山田にとっての“鬼門”、3回戦へと駒を進める。

 

 試合後のスコアボードには、再び“8”の数字が浮かんでいた。地元の丸岡高(福井)と対峙した一戦は、2試合続けての8-0という大差に。しかも、8人で8ゴールを記録した結果には、指揮官も「ありとあらゆるところからゴールを狙えるのは凄く大きいのかなと思いますね」と評価を口にする。

 

 帰ってきた名須川は3戦連発と絶好調。普段は比較的おとなしいタイプで、発言も地に足が付いている。ただ、「自分は今、山田で一番点を獲っていると思うんですけど、そこで天狗とかに絶対ならないで、これからもチームのために働いて、点を獲っていきたいと思います」と言いながらも、「できれば得点王、獲りたいです」と続けた言葉に自身のプレーへの充実感も窺える。

 

 相棒の渡邊は2回戦でスタメンを外れ、危機感を持って臨んだゲームで今大会初ゴール。「昨日の練習の時に監督から『オマエ、まだ1点も決めてないな』と言われて、ちょっと焦っていて(笑)、今日入った時は本当に『よかった~』と思いました」と笑顔を見せつつ、準々決勝以降の意気込みを問われ、答えた言葉が微笑ましい。

 

「正直1点じゃ物足りないと思っていますし、やっぱり青森山田から得点王が出ればいいなと自分は思っているので、誰でもいいんですけど、できれば自分がなりたいです。だから、ナスが決めると、『うわ~』となるし、『よっしゃ~』ともなるので、複雑です(笑)」。渡邊の屈託のないキャラクターは、チームの大きな潤滑油になっている。

 

 東山との準々決勝は、5点をリードした終盤に落とし穴が待っていた。次戦以降を見据え、前線の選手を入れ替えたことで、全体のプレー強度が低下し、大会初の失点を含む2ゴールを献上。とりわけ1失点目は、普段ほとんどミスを起こさない宇野のボールロストが起点になっていた。

 

「メンバーが代わることによって前の圧が変われば、こういう失点もしてしまうということは、明後日に向けて喝を入れられる良い薬を与えていただいたなと」。改めて気を引き締め直した黒田監督にとって、“良い薬”を与えてもらった東山の福重良一監督は大阪体育大学時代の同級生。しかも、在学時から特に仲の良い関係性だったという。

 

 福重監督が語った、親友との“前哨戦”についての話が興味深い。「青森山田さんが勝ち上がってきて、ウチは何とか勝たせてもらって、対戦が決まった昼ぐらいにウチのコーチに『さあ、どっちから声を掛けようか』と(笑)。それで、やっと夕方の6時ぐらいにしびれを切らした剛から『明日よろしく』みたいなLINEが来たんです」。

 

「それでウチのコーチに『オレはずっと我慢してたのに、アイツから来たで』と(笑)。そこから『優勝候補やん』『いやいや、オマエ何を言ってるんだ』みたいにいろいろなLINEのやり取りをして、最後に『お互い頑張ろう』と。でも、向こうから連絡が来たので、そこは『勝ったな』と思いましたね。剛がちょっと甘かったです(笑)」。

 

「指導者としても彼の活躍は刺激になりますし、やっぱり25年ぐらい前の苦しい時も僕は知っているんでね。今があるのも苦労があったからなので、やっぱり同級生ですけど、そこはやっぱり見習わなあかんとこやし、頑張ってほしいです」。サッカーで生まれた絆は、やはり素晴らしい。日本一までは、あと2勝。

 

「本当に気持ちいいぐらいの完敗です」。静岡学園高(静岡)を率いる川口修監督は、晴れやかな顔でこう言い切った。インターハイ最注目カードとも称されていた準決勝。結果は全国屈指のアタッカー陣を擁する相手を被シュートゼロに抑え、4ゴールを奪い切った青森山田の完勝だった。

 

 とにかく宇野が効いていた。準々決勝の試合後。失点シーンに言及して「あのプレーは自分の軽率な考えだったり、それがプレーに出てしまったという自分の未熟さだと思っているので、しっかり受け止めて、あと最大で2試合はあるので、次の準決勝でああいうプレーをしないということも含めて、チームを統率する選手という自覚を持って、プレーしないといけないかなと思います」と話していた6番は、その自覚を準決勝のピッチで披露し続ける。

 

 そのパフォーマンスは、まさにノーミスといっていい出来。ただでさえ高い意識を有し、世代屈指のバランス感覚で中盤を取り仕切っていた男が、さらに“悔しさ”という反省材料を得てしまったのだから、手に負えない。静岡学園の猛者たちも、ほとんど宇野より先には進めなかった。

 

 あの黒田監督をして「100点満点のゲーム」と評価した一戦。ただ、松木は試合後にこう話していた。「米子北、怖いですよね。守って、守って、カウンターのサッカーなので。決勝まで進むことができて、自分自身ホッとしているんですけど、次に勝たないと意味がないので、それは次に向けて気持ちを切り替えていきたいです」。日本一までは、あと1勝。

 

 米子北高(鳥取)との決勝に関しては、あえて詳細を語るまでもないだろう。劇的な延長後半の決勝ゴールが決まった瞬間から、松木は人目も憚らず号泣していた。「言葉じゃ表せないですね、本当に。ずっと3年間こうやって取り組んできても、ダメで、ダメで。それがやっと実って、嬉しい気持ちが一番です」。涙の理由を問われ、こう口にしてはいるが、それだけで語り尽くせるほど簡単な感情ではないはずだ。

 

 過去2年のチームをレギュラーとして経験していたからこそ、最高学年で果たすべき責任が松木の双肩に圧し掛かる。3月。シーズンが始まる前に、こう話していたことが思い出される。「これからは本当にどうなるかわからないですけど、この経験してきたモノを生かして、チームをより一層強くするために自分がやっていかなければならない立場ですし、『今年のチームも強いんだぞ』『優勝できるんだぞ』という所を見せ付けていけたらいいなとは思います。個人的な目標はゴールをどん欲に狙うことと、あとはチームに一番貢献して、チーム自体を優勝させることですね」。

 

 格段にゴールの数は増えた。リーダーとして誰よりもチームに貢献してきた。あとは、優勝だけ。1年時のプレミアリーグファイナルを獲ってはいたものの、その年の高校選手権、翌年の高校選手権、遡れば中学3年時の全国中学校サッカー大会と、3年続けて全国の決勝で苦杯をなめてきた“負の連鎖”を、自分たちの代で断ち切りたいという想いが誰よりも強かったことは、想像に難くない。

 

 子供のように泣きじゃくるキャプテンに、チームメイトが涙と笑顔の入り混じった表情で近付いていく。黒田監督も、正木昌宣ヘッドコーチも、まるで親のような笑顔で10番を抱きしめる。優勝カップを掲げ、みんなで輪になって歓喜を共有し、ひとしきり騒いで報道陣の前へ姿を現した時には、もう普段の松木玖生に戻っていた。

 

「まずは一冠を獲れたので、そこは嬉しい気持ちを噛み締めながら、残り二冠に向けて気持ちを切り替えてやりたいですね。ここからもちろん相手もレベルアップしてきますし、自分たちもレベルアップするので、また新しい青森山田を見せていけたらいいなと思います」。

 

 1つの負けも許されないプレッシャーの中で、苦しみながら、もがきながら、一冠目を奪い取った青森山田。掲げた三冠の中でも、なかなか頂点に立てなかったインターハイのタイトルを獲得したことで、いよいよ彼らは『史上最強への挑戦状』を手に入れたと言えそうだ。

 

 当然、叩き付けられた側も黙っていない。静岡学園や米子北を筆頭に、一度敗れた者たちはリベンジの機会を虎視眈々と窺い、プレミアリーグでも年代きっての強豪たちが、次こそは彼らを倒そうと手ぐすね引いて待ち受けている。そして、それを上回るだけの日常を積み重ねていく覚悟も、青森山田の選手たちには間違いなく備わっている。

 

 『史上最強への挑戦状』が加速させるであろう、100回目の高校選手権を巡る高校年代の覇権争いは、きっと今まで以上に目が離せない。

 

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