ともに主軸の1、2年生をベンチに置き、3年生を起用
千葉のライバル、市立船橋と流経大柏がプレミアリーグEASTで激突した。写真:安藤隆人
『ライバル決戦』にふさわしい戦いだった。プレミアリーグEAST第7節で市立船橋と流通経済大柏の高体連トップレベル同士の同県対決が行なわれた。
「今年初の市船戦なので、この試合に対する気持ちが強い3年生で臨むことにしました」と、流通経済大柏の榎本雅大監督が語ったように、U-17日本代表のGKデューフエマニエル凛太朗、DF大川佳風ら主軸の2年生をベンチに置き、スタメンをオール3年生に。
対する市船も「試合までの1週間の練習で3年生のパフォーマンスが良かった」と、スタメンの多くを占めていた1、2年生をベンチに置き、GKドゥーリー大河とMF芦沢颯太以外は3年生でスタメンを固めてきた。その中には直近のリーグ2試合でスタメンを外れていたキャプテンのFW平良碧規の姿もあった。
「調子を落としていたのですが、流経柏戦だけは何としても出たいと思って練習から必死でした」
この平良の気持ちはピッチに立った両チーム22人だけでなく、ベンチにいる選手も持っていたに違いないと確信できるほど、立ち上がりからバチバチの試合展開だった。ボール回しで優位に立つ流経大柏が、川畑優翔と石川裕雅の2トップを軸に前への圧力をかけて攻勢に出るが、怪我から復帰をした守備の要・針谷奎人が束ねる市船の堅守の前にはじき返される。
試合が動いたのは15分、市船がFKからゴール前に蹴り込むと、抜け出した平良がGK佐藤諒より一瞬早くボールを頭に当て、先制点を押し込んだ。リードを許した流経大柏は39分に本来はアタッカーだが、この試合はCBで起用されたキャプテンの渋谷諒太が相手との接触で頭部を裂傷。そのまま負傷退場となるアクシデントに見舞われた。
だが、ここから流経大柏が勢いを取り戻す。後半開始の3分間で3本のシュートを放つなど、同点、逆転に向けて前への圧力を強めると、対する市船の守備もより強固なものになっていった。針谷のコーチングに対し、小笠原広将と金子光汰が呼応して身体を張った守備を展開。平良らアタッカー陣も守備に加わって分厚いブロックを形成する一方で、守備から攻撃に切り替わった際は全力スプリントで相手人内に雪崩れ込み、チャンスを狙い続けた。
今後最大であと3回の対戦も。どんな成長物語が刻まれるのか。
市立船橋はキャプテンの平良碧規が先制点を挙げ、幸先の良いスタートを切る。写真:安藤隆人
まさに一進一退の攻防が終盤まで続いたが、徐々に運動量が落ちてきた市船に対し、流経大柏が一気に畳みかけてきた。そして90分、流経大柏に同点ゴールをもたらしたのは、この試合のメンバーで唯一3年生でベンチスタートのMF廣谷瑠己だった。
「最初は2年生のDF都築駿太を入れようと思ったけど、廣谷がデューフと2人で必死にアップをしているのが見えた。その姿を見て『廣谷で行く』と決めた」と、スタメンではなかった悔しさをポジティブな気持ちで表現した彼に、榎本監督は試合を託すことを決めた。
その判断が見事に的中。85分に投入されると、積極的なドリブルでリズムを作り出した。そして終了間際に同じく途中出場のMF長谷部陽也が左サイドを突破。「市船の選手が全員ニアに飛び込んだ石川裕雅に食いついていたので、ファーに飛び込めばボールが来ると思った」と、わざと遅れてゴール前に飛び込むと、長谷部からのドンピシャのクロスをダイレクトボレーでゴールに蹴り込んで見せた。
この劇的な同点弾により、ライバル決戦は1-1のドロー決着に終わった。タイムアップの瞬間にお互い勝ちきれなかった悔しさでうなだれる選手たちの姿がピッチに映った。それほど彼らはライバルに勝ちたかった。
「勝ちきれなかったのは本当に悔しい」と両チームの選手たちは異口同音に悔しさを表現したが、その一方でこの勝点1は双方に大きな手応えをもたらしていた。
「やっぱり市船は堅い。さすがでした。でも、『これが市船だぞ』ということを3年生が身をもって体感できたことは大きい。この先、インターハイ予選、リーグ後期、選手権予選と避けて通れない相手だけに、この経験をした3年生がより中心となってくれると思います」と榎本監督が語れば、市船・波多秀吾監督も「僕らスタッフが『次は流経柏が相手だぞ』と言わなくても、3年生が意識の高さや意地をこの1週間で示してくれた。本当に重要な相手だなと改めて思いました」と、選手たちの奮起に目を細めた。
互いに絶対負けたくない相手であり、自らの力を引き出してくれる相手でもある。まさに最高のライバルであることを示したこの一戦。今後、最大で3回は行なわれるこのカードで、どのような成長物語が刻まれるのか、今から非常に楽しみでならない。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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