「僕も自分を否定し続けた」鈴木武蔵が打ち明けた過去と、新潟明訓の選手たちに響いた「自己肯定」の大切さ
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新潟でキャリアをスタートさせた日本代表FWが、新潟明訓高サッカー部でオンライン講演会を行なう。

 

 

 全員が喉から手が出るほど欲しかった勝点3。それがついに手の中に収まった。

 

 プリンスリーグ北信越5節の新潟明訓vs北越の『新潟ダービー』で、これまで1分け3敗と勝ちなしの新潟明訓は、1-0でライバルを下して、リーグ初勝利を手にした。

 

 この歓喜の前に、チームは長く続く低迷からの浮上のきっかけとするべく、日本代表ストライカーから大きな檄を受けていた。インターハイ予選のシードが決まる新潟高校春季地区体育大会を2日前に控えた5月3日、新潟明訓高サッカー部全員が参加する形で、ベルギー1部ベールスホットでプレーする現役日本代表FW鈴木武蔵のオンライン講演会が行なわれたのだった。

 

「開幕戦こそ星稜に引き分けましたが、そこから富山第一、帝京長岡に立て続けに0-3で負けるなど、選手たちも自信をなくしかけていました。決して今年のチームは力がないわけじゃないので、なんとかして全員でもう一度同じ方向を向いて戦う機運を作りたかった」と就任2年目の坂本和也監督が語ったように、経験豊富な日本を代表するプロサッカー選手の生の声で選手たちに刺激を与えたいという指揮官の思いが、鈴木がプロのキャリアを新潟でスタートさせた縁とつながり、この講演会が実現した。

 

 2時間に渡る講演の中、選手たちは全員真剣な表情で話を聞くだけではなく、多くの選手が質問をぶつけた。鈴木が3月に出版した自伝『ムサシと武蔵』(徳間書店)を読んで、差別や偏見などについての質問をする選手もいれば、勝利を手にできない苦しいチーム状況を素直に口にして打開策を探ろうと質問をする選手もいた。

 

「選手たちが積極的に鈴木選手に質問をする姿を見て、『僕も頑張らないといけない』と思わされました。意見がきちんと言えて、チームのことを真剣に考えてくれている姿勢から僕も学ぶことが多かった」(坂本監督)

 

 その成果はすぐに出た。地区大会で新潟明訓は決勝まで駒を進め、決勝では日本文理に1−2で敗れたが、シード権獲得には成功。そして、4連戦から中1日という状況下でプリンスリーグ北信越の北越戦を迎える。疲労は蓄積していたが、選手たちが見せたのは凄まじい勝利への執念だった。

 

鈴木選手から「本当にまとまっているチームは本音をぶつけ合えている」と言われ…

 

 

 新潟明訓は、アンカーの田村建人、土橋正詠と若林陸斗の2シャドーによる中盤のトライアングルが北越のパス回しに応対。中盤を引き締めると、スタメンに抜擢された左ウイングの1年生アタッカー、友坂海空が得意のカットインでアクセントを加え、攻撃にリズムをもたらした。スコアレスで迎えた後半は、友坂の躍動に刺激を受けた右ウイングのエース・内藤大夢もよりゴールに近い位置でドリブル突破を仕掛けるようになったことで、ゴールの可能性はグッと高まった。

 

 そして58分にキープ力に秀でた10番・MF真保瑠輝が1トップに入ると、より両ワイドの攻撃力が引き出される。70分には田村のインターセプトから縦パスを受けた真保が、鋭いターンからドリブルで仕掛けると、ゴール中央の絶好の位置でFKを獲得。「自信があった」という友坂の右足から放たれたキックは鮮やかな弧を描いてゴール右隅に吸い込まれた。

 

 待望の先制点を掴み取った新潟明訓は、攻守において気迫にあふれたプレーを披露し、タイムアップのホイッスルを耳にすることになった。勝利が決まった瞬間、その場に倒れ込む選手、涙を流す選手、そして試合を見守っていた部員たちも喜びを全身で表現していた。

 

「鈴木選手から『本当にまとまっているチームは本音をぶつけ合えている。よく負けが込んだり、チームの状況が悪くなるとミーティングとかするのですが、ありきたりな言葉とか、とりあえずやっているだけなこともあって、それではいつまで経っても改善されない』と言われ、本当にその通りだなと思ったんです。僕らは話し合っているつもりだったけど、本当のことを言い合えていなかった。鈴木選手の講演会から一人ひとりの意識が変わったと思います」

 

 こう語るのは決勝点のきっかけを作った真保だった。生きたアドバイスをもらったことで、新潟明訓の選手たちは自分たちの現状にきちんと向き合うことができた。さらに、講演会での鈴木の言葉で、選手たちに大きく響いたものがあった。

 

鈴木武蔵が赤裸々に語った過去。大事なのは変えられない事実を受け入れて…

 

「悩んでいる時とか、苦しんでいる時ってどうしても自己肯定感が低くなって、自己否定が強くなるんです。僕もずっと肌の色が黒いことで自分を否定し続けた。でも、それって絶対に変えることが出来ない事実なんですよ。色が白くなりたいと思って、本にも書きましたが、いろんなことをした。でも白くなれるわけがないんです。どんなに否定しても嫌がっても変えられない事実がある。大事なのはそれを受け入れて、『それも自分なんだ』と自己肯定をしていかないといけないんです。自分が自分の可能性を信じてあげないと、視界は開けない。自己肯定をしっかり持っていってほしいし、周りがそれに気づかせてあげてほしい。その時はマイナスで、ネガティブなことでも時を重ねていけばプラスになり、ポジティブになる。それを知ってもらえると嬉しいです」

 

 日本代表FWが赤裸々に語った言葉に、キャプテンの田村は「本当にその通りだと思ったし、まずは自分たちの可能性を信じることから始めた。今日も全員が全員を信じることができた」と口にしたように、『苦境こそ成長へのチャンス』ということを改めて共有することができた。

 

「この1勝を無駄にしないように、これからさらに全員で戦っていきたい」(田村)

 

 深い経験に基づいた言葉は考えや行動を変える。まさに大きなターニングポイントを迎えた新潟明訓は、明るい未来に向かって力強い一歩を踏み出した。

 

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

 

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