【涙の高校サッカー選手権】1年に正GKを奪われた“J内定3年”の葛藤、「楽しそうにサッカーやるヤツら」への反抗心―2020-21 BEST3
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 雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は高校サッカー、涙と青春の4つの言葉です。

 

<名言1>

こんなに楽しそうにサッカーやるヤツらに負けちゃいけないって。でも、ホントは違うんだよね。

 

 全国高校サッカー選手権では数々の伝説のゲームが生まれてきた。1990年代で“ベスト”と言われるのが1997年度の「雪の決勝」だ。

 本山雅志や千代反田充らを擁して“赤い彗星”と称された東福岡が、インターハイと全日本ユースに続く史上初の三冠獲得なるかが注目の的だった。そこにさらなるドラマ性を生んだのは、当時8度の全国制覇を誇る名門・帝京、そして都内に降り積もる大雪だった。

 

 当時、帝京も貞富信宏、そして中田浩二とJ内定者が複数人いた。その中で10番を背負った木島にはオファーがなく“就活中”。進路未定のまま決戦に臨んだ。

 

 雪の降り積もるピッチという不確定要素によって、東福岡の技術が減じられるのでは――戦前、そんな予想があった。実際、先制点を奪ったのは“蹴って走る”スタイルでいった帝京だったが、木島は試合前からこう思っていたという。

 

「正直、俺はイヤでした。あの雪は、ドリブルを持ち味とする俺のプレースタイルはハマらない」

 

「サッカーは、楽しんだヤツのほうが強い」

 

 ただ、画面を通して見ると真っ白に見えたピッチだが、実は雪の積もり具合はさほどではなかったという。それを肌で感じ取った東福岡イレブンは“普段通り”ボールをつなぐと、本山の絶妙なアシストなどもあり、2-1と逆転に成功し、歓喜のタイムアップを迎えたのだ。

 

「サッカーは、楽しんだヤツのほうが強い。あの時はまだ、そういうことがわかってなかった」

 

 もし木島が、雪のピッチを楽しめていたならば――。東福岡の三冠制覇の結末は、少し違ったものになっていたのかもしれない。

 

<名言2>

インターハイに出られない一方で、“フットサルで日本一を取った”っていうのはすごく自信になりました。

 

◇解説◇

 

 ここ近年、高校サッカー北信越の雄として存在感を放っているのが、新潟の帝京長岡だ。2019年度には晴山、谷内田哲平ら後のJリーガーを軸にした小気味いい攻撃スタイルで、初の全国4強進出を成し遂げた。

 

 実はその前年から、帝京長岡躍進の気配は漂っていた。特に晴山は2018年度の選手権で2年生エースとして、4ゴールを挙げる活躍でチームをベスト8に導いていた。それ以外にも1つ、ユニークな“勲章”がある。

 

「全日本U-18フットサル選手権」で優勝とMVPを掴み取っていたことだ。

 

 実はこの年の帝京長岡は、夏の一大目標となるインターハイに出場できなかった。6月の県大会決勝でPK戦の末に敗れたのだ。この失意からいかに立て直すか……というアプローチで、帝京長岡は従来の学校と少し違う道を選んだ。

 

「全国優勝という結果が自信につながった」

 

 それはインターハイと同じ8月開催の「全日本U-18フットサル選手権」に、フルメンバーで出場したこと。そこで帝京長岡は同大会でグループリーグ3試合で20ゴール、決勝トーナメントでもゴールを量産するなど圧勝を積み重ねる。決勝戦も5-1で制し、2年ぶり2回目の優勝を果たしたのだった。

 

「『全国優勝』という結果がみんなの自信につながったのかなと。もしインターハイに出ていたら、たぶん全日本フットサルはフルメンバーで行けなかった。そこで頭を切り替えて、優勝しきれた。それがチームの勢いになったし本当に良かったと思います」

 

 晴山はこのようにも語っていたという。

 

 新潟と言えば日本有数の豪雪地帯だ。そのため帝京長岡は冬季、体育館でのフットサル練習に励み、足元のテクニックに磨きをかけている。そして競技は違えど、全国を制したことで“勝者のメンタリティー”が生まれたとも言えよう。

 

 帝京長岡は2020年度の選手権でも優勝候補の市立船橋を破るなど、2年連続での埼スタ行きチケットを手に入れている。強くなるためのルートは1本だけじゃない。帝京長岡の取り組みは、各地方のサッカー少年や指導者にとっても励みになるはずだ。

 

激闘を繰り広げた相手を称えて

 

<名言3>

嬉しかったんですけど、負けたチームがいますから。

 

◇解説◇

 

 昭和の頃、「冬の選手権」は多くのサッカー少年にとって集大成の舞台だった。ただ2020年代となった今は大学などでサッカーを続ける選手が数多い。また世界中のサッカーが見られるようになった環境もあって、選手たちのコメントもかなり変化してきた。

 

「好きなのはプレミアリーグ、マンチェスター・シティのスピード感を経験してみたい。憧れはフィル・フォデン選手です」

 

 第98回の選手権、青森山田で当時1年生だった松木玖生がこんな風に語っていたのは“イマドキ”と言えるし、ピッチで見せる洗練されたプレーはプロ顔負けの時もある。

 

 その一方で令和の世になった今も、仲間と戦う部活らしさを感じるコメントがこぼれてくるのもまた、味がある。

 

 この大会で日本一に輝いたのは静岡学園だった。優勝候補の大本命とみられた青森山田相手に前半で2点ビハインドとなりながら、3点を奪い取る大逆転劇。“サッカー王国”静岡に24年ぶりとなる優勝旗をもたらした。

 

 この試合でDFリーダーの中谷は青森山田の攻撃陣と渡り合い、自身も2得点を奪った。まさにヒーローになったわけだが、劇的な展開にも青森山田をこう称えていたのだ。

 

「相手がいたからこそ、良い試合ができました。だから、みんなに『後から喜ぼう』と伝えました」

 

 プロ顔負けだったのは技術だけでなく、メンタリティーもだった。

 

<名言4>

「俺は一体何をしているんだろう」と……。まさかまだ入学前の松原にスタメンを取られるとは予想もしていなかった。

 

◇解説◇

 

 流通経済大学柏は千葉、いや日本有数のサッカー強豪校として知られている。そこで繰り広げられるのは激しく、ハイレベルなチーム内競争だ。

 

 特に熾烈なのは、たった「1枠」しかない正GK争いである。

 

 185cmと恵まれた体格の猪瀬は、2年生からトップチームに入ると第2GKながら選手権準優勝を経験。翌年度の守護神候補と見られていた。

 

 しかし、猪瀬が高2秋の段階で「即戦力のGKが入って来るらしい」という噂が部内に飛び交い、それが現実になる。世代別代表経験もある松原颯汰の入学が決まったのだ。

 

 

 猪瀬にとって不運だったのが、負傷だった。左足骨折などもあって戦線を離脱、その間に松原が入学前から“守護神”としてサニックス杯のレギュラーGKとして抜擢されると、全国の強豪相手に好セーブを連発したのだ。

 

 復帰間近の猪瀬は同大会に参加せず、千葉で調整を進めていたが、「サニックスから帰って来たAチームの選手達が部室で『松原すごいな』、『あいつ半端ないわ』という会話を何度もしていて……」(猪瀬)。これほどまでにショックを受けたことはサッカー人生でないだろう。

 

序列は変わらずとも、自らのできることを

 

 その後も序列は変わらず、最上級生で迎えた9月ごろには就職を考えるなど、高校まででGKグローブを置こうと思った期間もあったという。それでも「やっぱり僕はサッカーをしたいし、正GKとしてプレーしたい」という思いが沸き上がるとともに急成長を果たす。

 

 控えだとしても、見てくれている人はいた。J2のFC琉球から練習参加の誘いを受けた。ここで「一番良いプレーができた」猪瀬は、翌シーズンの加入内定をゲットしたのだ。

 

 迎えた最後の選手権、ゴールマウスに立ったのは――松原だった。

 

 それでも猪瀬は「今日も頼むぞ」と、日々お互いを高め合った後輩をサポートし続けていた。

 

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