【選手権総括】大会中に緊急事態宣言が発令 コロナ禍で開催の大会を振り返る
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青森山田イレブン

 

  第99回全国高校サッカー選手権大会が無事、幕を閉じた。大会前から懸念されていた新型コロナウィルス感染症は未だ収束の兆しが見えず、2回戦が行われた1月2日には大会開催地である1都3県の知事が政府に緊急事態宣言を要請したことで大会継続を不安視する声もあったが、保護者や学校関係者のみ許されていた現地観戦を準決勝以降は中止して無観客に切り替えるなど対応により、最後まで実施することができた。

 

 ピッチ内では各会場で熱戦が繰り広げられた中、大会を制したのは山梨学院高等学校。11年ぶり2度目の栄冠に輝いた。決勝戦は11年前の初優勝時と同じ青森山田との対戦となり、試合展開も前半10分過ぎに先制点をあげるという、当時を再現するような立ち上がりとなった。後半に一時は逆転を許すも、FW野田武瑠の今大会初ゴールで追いつき、勝負の行方はPK戦へ。山梨学院にとっては3回戦の藤枝明誠戦、準決勝の帝京長岡戦に続いて大会3度目のとなるPK戦という経験を生かして、GK熊倉匠の好守もあり優勝を飾っている。

 

 長谷川大監督は「10回戦って、1・2回勝てれば良い相手。その1回が来るようにどう戦うのかを準備しました」と話しており、その為に青森山田のビルドアップで攻撃の起点となるCB藤原優大にマンマークをつける作戦を立てた。奇策とも言えるプランは見事にはまり、逆転された後半も交代出場した選手が作ったチャンスを、選手交代を機に前線から中盤へポジションを下げていた野田が後方から走りこんで決めるなどベンチワークが的中している。大会を通じて、指揮官のプランやゲーム中の修正を選手がしっかりと遂行しており、プロ内定選手や年代別代表の選手がいない中でもチームとしての強さを発揮することが優勝の要因となった。

 

 PK戦では山梨学院GK熊倉と青森山田MF安斎颯馬が注目を集めた。共にFC東京U-15深川に在籍した元チームメイトで、中学時代最後の大会をPK戦で敗れた経験を持つ。そんな二人が高校最後の大舞台で対峙し、PK戦で安斎のキックを熊倉がストップ。試合後、涙を流す安斎に熊倉が寄り添う姿に胸を打たれた人も多かったのではないだろうか。

 

 2大会ぶりの頂点を目指した青森山田は惜しくも準優勝に終わったが、結果はPK戦によるもの。延長戦を含む110分の戦いは素晴らしいものだった。決勝戦直後のインターネットの検索トレンドに"両校優勝"というワードが出ていた。高校選手権では2000年から決勝戦で決着がつかない場合にPK戦を行うようになり、両校優勝という制度は廃止されているのだが、どちらのチームも優勝に値する戦いだったと感じる人が多かったということだろう。大会を通じても、準決勝・矢板中央戦のハットトリックを含む5ゴールで得点王に輝いた安斎と、2年生で10番を任されるMF松木玖生の2列目は高パフォーマンスを披露。キャプテンの藤原は戦術的にも精神的にも必要不可欠な存在として、チームを牽引した。攻撃から守備への鋭い切り替えからボールを奪い返す力も健在で、伝統芸ともいえるロングスローは今大会でも猛威を振るった。

 

 大会全体では、Jリーグ内定選手4名を要する昌平が注目を集めた。高い技術を生かしたドリブルやパスで攻撃を仕掛け、ボールを失っても即座に守備へ移行するプレッシングで奪い返す。1回戦の高川学園戦では試合終盤に2点ビハインドという絶体絶命の状況に追い込まれながら、MF篠田大輝とMF篠田翼の兄弟アベックゴールで追いつき、PK戦の末に初戦突破。続く2回戦では西野太陽と木原励の大会屈指の2トップを要する京都橘を相手に、局地戦を制し続けることで主導権を渡さず、相手攻撃陣にボールを届けさせないことで無力化させた。ベスト8でセットプレーによる失点で山梨学院に破れはしたが、質の高いサッカーは優勝候補の前評判に恥じぬものだった。

 

 他にも高強度の守備で3年連続ベスト4進出を果たした矢板中央、黄金世代が去った翌年に高い位置からの守備という新たな武器を備えて2年連続ベスト4進出となった帝京長岡、選手主体でチーム強化に取り組むボトムアップでベスト8進出を果たした堀越、12月上旬にバスケ部でクラスターが発生して活動自粛となり開幕1週間前からの再開にも関わらずベスト8まで素晴らしい戦いを見せた市立船橋も印象深かった。

 

 また、ベスト8の半数以上が中高一貫による附属中学校のサッカー部、もしくは下部組織に該当するジュニアユースが存在していた点も見逃せない。3年間ではなく6年間かけての強化。中学年代から一貫した指導を受けて成長した選手が、同じスタイルの下で高校サッカーに取り組める利点が、上位進出という結果を後押ししている。

 

 最後に、冒頭でも触れたが困難な状況の中で開催に尽力した大会事務局やチーム関係者、心身両面で選手の支えになったであろう保護者など、今大会に関わる全ての方に改めて感謝と敬意を表したい。インターハイが中止となり、リーグ戦も規模縮小もしくは中止となる中、選手たちの心の拠り所は最後に選手権が開催されることだった。年末年始に行われた他競技の全国大会では、大会前の出場辞退や大会中の棄権があった中、サッカーはそうしたことが起こらずに最後まで競技を全うすることができたのは素晴らしいことだった。

 

 来年度は第100回大会となる。1年後がどのような状況になっているかわからないが、選手たちがピッチで躍動し、客席から声援が送られる。そんな日常の下で記念すべき第100回大会を迎えることを願ってやまない。

 

(文=雨堤俊祐 フォトギャラリー写真=オフィシャルサポート)

 

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