「ロングスローからは点が入らない」青森山田・黒田監督の“意外な発言”の裏側に感じた名将の矜持【選手権】
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反対派と肯定派がSNS上で議論

 

他校のマークを受けながらも、青森山田を3年連続の決勝に導いた黒田監督。(C)SOCCER DIGEST

 

 山梨学院の11年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた第99回全国高校サッカー選手権大会。コロナ禍で行なわれたこの異例の大会で、物議を醸したのがロングスローだ。

 

 高校サッカー界におけるロングスローの多用化は今に始まったことではない。もう何年も前から多くの高校が採用している。実際、今大会の4強を見ても、山梨学院がMF新井爽太(3年)、矢板中央(栃木)がDF島﨑勝也(2年)、そして青森山田がDF内田陽介(3年)というスペシャリストを擁し、テクニカルなパスワークが売りの帝京長岡(新潟)も頻度は少なかったが用いてはいた。

 

 ロングスローの賛否が盛り上がるキッカケとなったのは、青森山田と帝京大可児(岐阜)が4-2と撃ち合いを演じた3回戦だろう。優勝候補の大本命だった前者は、開始早々に先制を許したものの、内田のロングスローからなんと3点を奪って、あっさり試合をひっくり返したのだ。

 

 SNS上では「面白くない」「アンチフットボールだ」といった“反対派”と、「ルール違反でもなんでもない」「使える武器は使うべき」といった“肯定派”による議論が巻き起こった。

 

 そんななか、その青森山田を率いる黒田剛監督から、5-0で快勝した準決勝の矢板中央戦後に意外な言葉を聞いた。「ロングスローから、そう点が入るものではない」というのだ。毎年、11人のなかに必ずロングスローの使い手を入れ、十八番の武器として用いているチームの将が「ロングスローから点が入らない」というのはどういうことか?

 

 これには、「きちんと対処していれば」という前置きがある。「マークの仕方やストーンの置き方、こぼれ球の対応など、適切な守備をしていれば、簡単に失点をすることはない」という。

 

 事実、青森山田は、準々決勝まで長身DFの新倉礼偉をターゲットに猛威を振るっていた矢板中央のロングスローを完璧に封じてみせた。今大会で喫した4失点のうち、ロングスローやCKから奪われたゴールはない。それどころか、ロングスローで敵のDFが上がってきた隙を突いて、速攻からチャンスを作り出す場面も少なくなかった。

 

「青森山田のロングスロー対策は十分にやってきた」という敵を上回る

 

ロングスローで脚光を浴びた右SBの内田はキックの精度も格別だった。(C)SOCCER DIGEST

 

「ロングスローから点が入らない」という言葉から感じたのは、細部にこだわり、雪国でこつこつと常勝軍団を作り上げてきた名将の“矜持”だ。

 

 ひとつは、「ロングスローで簡単に点を取られるようなチームは作っていない」ということ。もうひとつは「相手の対策を上回る工夫をしているからこそ、ロングスローから点を取れる」ということだ。

 

 実際、矢板中央をここ4年で3度のベスト4に導いた高橋健二監督は、「準々決勝から準決勝までの3日間で青森山田のロングスロー対策は十分にやってきたが、相手がそれを上回った」とこぼしていた。

 

 黒田監督がもうひとつ強調していたのは、「青森山田は何でもできるチーム」という点だ。たしかにロングスローをはじめとするセットプレーでの強さが際立つものの、今大会は両サイドアタッカーとSBが連係したサイドアタックも秀逸で、次々にチャンスを創出していた。

 

“強肩”が脚光を浴びた右SBの内田は、“足”でのクロスも、2列目の選手をスペースに走らせる気の利いたパスも絶品だった。精鋭揃いの「北の横綱」では、当然ながらロングスローだけでメンバー入りできるほど甘くはない。

 

 3年連続で臨んだ決勝で敗れ、3度目の悲願達成は叶わなかったとはいえ、勝負を決めたのはPK戦だ。2-1と逆転してから、守備を固めて逃げ切る策を採る選択肢もあったが、相手を仕留めに3点目を狙いにいった。

 

 少なくともその姿勢は、アンチフットボールとは程遠かった。

 

取材・文●江國 森

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