虎姫高のサッカー部員、棚橋美葵さん(左)と柴田里莉さん
全国高校サッカー選手権滋賀県予選の2回戦(29日)で、虎姫高が行う試合前のウォーミングアップが目に留まった。虎姫は湖北エリア屈指の進学校で、県3部リーグに所属。選手権予選の登録メンバーは15名しかいない公立高校だ。目前に控えた試合に向けて、部員たちが汗を流す中、ひと際目立ったのはボール回しの輪に加わる2人の女の子。最初はマネージャーが数合わせで加わっているのかと思ったが、軽やかな身のこなしとボール裁きを見るとどうやら違う。
彼女たちはれっきとしたサッカー部の「選手」だ。他校は、少人数でも女子部員だけ、または中学の女子チームとの合同で活動することが多い。元女子日本代表FW永里優季が神奈川県2部リーグの男子チーム「はやぶさイレブン」に加入し、公式戦に出場したことが話題になっているものの、高校生の女子が男子と一緒に活動する姿はほとんど見かけない光景だ。
2人の名は、棚橋美葵さん(写真左)と柴田里莉さん(写真右)。聞けば共に小中学生の頃から男子選手にプレーしていた高校1年生だという。県内の女子サッカー選手の多くが高校に進学するタイミングで県外の強豪や県代表の常連である八幡商高など女子サッカー部がある学校へと進学するが、2人は勉強に打ち込むつもりで虎姫への進学を決めた。
入学した当初はサッカー部のマネージャーになるつもりでいたが、「県内の女子選手が県外に流出したり、サッカー人口が減少していると聞いていた。せっかくプレーする機会があるんだから、サッカー部に入って欲しかった」と振り返る渡邊航大監督に入部を誘われた。
当初は、「高校生になると体格差が開くから、最初は無理じゃないかと思った」(棚橋さん)、「男子高校生は身長が大きい人ばかりなので、一緒にプレーするのが怖かった」(柴田さん)が、試しに体験入部に参加すると、プレーヤーとしての気持ちが強くなった。入部前に抱いていた恐怖心も、「サッカーを一緒にやっていたら、忘れていた」(棚橋さん)。柴田さんも「ボールを蹴っていると、やらなくちゃという気持ちになる」と続ける。
とはいえ、入学した当初は互いに遠慮しあい上手くコミュニケーションがとれない時期もあった。楽しんで練習には取り組むものの、コンタクトが増えるゲームに参加するのは躊躇し、ボール拾いを志願することもあった。しかし、夏休みに男子部員から「全員で遊びに行こう」と声を掛けられ、琵琶湖に出かけたのを機に男女の壁は取っ払われた。今では、二人とも全てのメニューを男子部員と共にこなす他、練習試合や新型コロナウイルスの影響で例年とは違うレギュレーションとなった3部リーグにも出場した。「上手くいかないことが凄く多いけど、みんながカバーしてくれるから助かっている」(棚橋さん)。
選手権予選は規定により試合に出られないが、チームの一員としてウォーミングアップに参加し、選手と同じユニフォームの上にジャージを羽織って、ベンチにも入った。立場としてはマネージャーで試合に出られないもどかしさもあるものの、気持ちはピッチに立つ選手と変わらない。この日は草津高に0-2で敗れたが、柴田さんは「試合に出られなくても、大会で勝った時は嬉しい」と口にする。
9月にはサッカー部が立ち上がったばかりで人数が少ない近江兄弟社高などの選手と合同チームを組んで女子の選手権予選に出場し、八幡商と対戦した。棚橋さんが右SB、柴田さんが左SBとして奮闘したが、結果は惜しくも1-2の敗戦。しかし、「普段男子と一緒に活動しているから体力がついて、中学時代の時より走れるようになった」(棚橋さん)、「身体を当てに行った時にあまり負けなかったし、男子のスピードに慣れているから落ち着いてプレーできた」(柴田さん)と高校での成長を実感している。
2人がサッカー部に加わった効果は男子部員にも及んでおり、渡邊監督は「フィジカルやスピードでは男子に劣るけど、ボールを持っていない時の動きは上手い。考えてインターセプトを狙ったり、ボールの動かし方のイメージに長けている。一緒にプレーすることで彼女たちのメリットがあるかなと思う一方で、男子にも彼女たちの良さを学ぶ部分もある」と口にする。
来年以降も合同チームとして女子の大会に参加できるかは、他校の部員数次第だが、2人は公式戦に出られなくても虎姫高サッカー部の一員としてサッカーを続けて行く。男子部員に混じって、サッカーを楽しむ2人に憧れ、虎姫への入学を考えるようになった中学時代の後輩がいるのは朗報だ。高校サッカーは全国に出るチームやプロに進む選手が全てではない。純粋にサッカーを楽しむ彼女たちの存在も、高校サッカーが持つ魅力だと感じさせる一日となった。
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鹿児島城西のMF芹生は、身体の使い方が上手く、パスセンスも高い司令塔だ。写真:松尾祐希 今年のチームは攻撃陣にタレントが揃う “半端ない”FW大迫勇也(神戸)を擁して選手権で準優勝を果たしてから15年。鹿児島城西が虎視眈々と復権の機会を狙っている。 鹿児島の高校サッカーと言えば――。2000年代の前半までMF遠藤保仁(磐田)やMF松井大輔(YS横浜)らを輩出した鹿児島実がその名を轟かせた。 近年は神村学園が躍進し、昨年度は福田師王(ボルシアMG)やMF大迫塁(C大阪)を擁してベスト4まで勝ち上がったのは記憶に新しい。インターハイは6年連続、冬の選手権も昨年度まで6年連続で出場しており、今季から2種年代最高峰のU-18プレミアリーグ高円宮杯に参戦するまでになっている。 一方で鹿児島城西は前述の通り、2008年度の選手権で日本一にあと一歩まで迫り、以降も神村学園と切磋琢磨し...
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