コロナ禍でも諦めるな。高校最後の 舞台でプロ入りを射止めた選手たち
{by} https://sportiva.shueisha.co.jp/

 

 昨年度の第98回全国高校サッカー選手権大会でのことだ。ベスト8に進出した四日市中央工のキャプテン、MF森夢真がちょっとした話題となった。

 

 1回戦から3試合連続の計5ゴールを挙げ、大会得点王となった実力もさることながら、卒業後の進路を「プロ1本」と公言し、この大会を「就職活動の場」と位置づけていたからだ。

 

 チームは準々決勝で敗れ、「日本一になってプロにアピール」には至らなかったが、念願叶ってJ3のアスルクラロ沼津入りが決まった。ルーキーシーズンの今季、すでにJ3デビューも果たしている。

 

 今年に入り、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、日本では多くのスポーツ大会が中止となっている。

 

 夏の甲子園やインターハイをはじめとする高校生の大会も例外ではなく、本来なら3年間の集大成となるはずだった舞台が次々に失われ、悲嘆に暮れる高校生は数多い。

 

 そんな状況にあって、高校生アスリート、特にトップレベルの選手が頭を悩ませているのは、進路の問題だ。

 

 本来ならプロへ進みたいのに、スカウトの目に留まる機会がない。あるいは、スポーツ推薦で大学進学を考えていたのに、大学関係者に見てもらえない。大会の中止は、そうしたグラウンド外での難題も引き起こしている。

 

 幸いにして、サッカーの場合、冬の風物詩となっている全国高校サッカー選手権は開催される見通しだ。各都道府県では、すでに予選も始まっている。今年度最初で最後の全国大会を目指し、一度は落ち込んだ選手たちの気持ちも、再び高まっていることだろう。

 

 もちろん、現実的に考えれば、まもなく卒業という時期に行なわれる大会の成果が、3年生の進路に与える影響は小さいのかもしれない。

 

 だが、歴史を振り返ると、"選手権で就活"をしていた選手は、冒頭で紹介した森だけではない。以下の紹介するのは、最後の最後で夢を実現した選手たちである。

 

 2002年1月、自国開催のワールドカップをおよそ半年後に控え、日本サッカーは空前の盛り上がりを見せていた。

 

 その年行なわれた第80回大会を制したのは、国見。GK徳重健太、DF徳永悠平(ともに現V・ファーレン長崎)、MF柴崎晃誠(現サンフレッチェ広島)ら、のちにJリーガーとなるタレントを各ポジションに揃えた優勝候補筆頭は、前評判どおりの強さを見せつけ、2年連続5度目の優勝を果たした。

 

 だが、決勝の相手は少々意外な伏兵だった。

 

 3回戦ではインターハイ優勝の市立船橋を、準決勝では6名のJクラブ加入内定者を擁する前橋育英を次々に下し、打倒・国見の挑戦権を手にしたのは、これが初の決勝進出だった岐阜工である。

 

 快進撃の立役者は、1回戦から準決勝まで5試合連続ゴールのFW片桐淳至。技術的には粗削りながら、愚直にゴールへ向かうエースストライカーの存在は、岐阜工の攻撃のすべてだと言ってもよかった。

 

 決勝が行なわれた国立競技場でも、彼がボールを持って前を向くたびにスタンドが沸き、会場全体が期待感に満ちあふれた。DFに囲まれても強引に突破していくスピードと、体勢を崩しながらでも前へ突き進む力強さは際立っていた。

 

 結果的に決勝は1-3で敗れ、自身もノーゴールに終わった。だが、DF3人に囲まれながら、力強いボールキープから絶妙なラストパスを通した1アシストは、絶対王者を相手に十分なインパクトを残すものだった。

 

 片桐がこの大会で奪ったゴール数は6。国見の柴崎と並び、大会得点王となった。

 

 ところが、高いポテンシャルを感じさせる未完の大器も、当時の進路は未定。Jクラブもノーマークだったわけではないが、プレーにムラがあり、なかなか進路が決まらなかった。大会中には「卒業後はプロでやりたい」と話し、「最終的にはヨーロッパでプレーしたい」とも語っている。

 

 はたして、この大会での活躍が決め手となり、複数のクラブが獲得に動くなか、片桐は名古屋グランパス入りを決めた。選手権での必死の就活がなければ、実現しなかったプロ入りだっただろう(2014年、現役引退)。

 

 また、1996年1月、第74回大会でも、ひとりの高校生が選手権での活躍をきっかけに、プロへの道を切り開いている。日本がアトランタ五輪最終予選を勝ち抜き、28年ぶりに世界への扉を開くことになる、およそ2カ月前のことだ。

 

 静岡学園と鹿児島実が両校優勝となったこの大会は、柳沢敦(富山第一→鹿島アントラーズなど)、山下芳輝(東福岡→アビスパ福岡など)、平瀬智行(鹿児島実→鹿島アントラーズなど)ら、ストライカーが豊作だった。3年前にJリーグが誕生したばかりの当時は、優秀な高校生が軒並みプロへ進んだ時代でもある。

 

 そんな空前のストライカー当たり年にあって、主に右サイドを主戦場としていたMFながら、次々にゴールを陥れる小柄な選手が注目を集めた。

 

 初芝橋本のMF吉原宏太である。

 

 この大会を「就職活動の場」と公言してはばからなかった吉原は、チームをベスト4へ導くとともに、自身も7ゴールを挙げて大会得点王を獲得。一躍大会屈指の注目選手となった甲斐あって、コンサドーレ札幌への加入が決まった。

 

 当時の札幌は、JFLの東芝がJリーグ入りを目指して北海道へ移転し、新たに誕生したばかりのクラブだったが、吉原はJFL優勝とJリーグ昇格に貢献。札幌での活躍が認められ、シドニー五輪代表やA代表にも選出されている。

 

 かつてのJリーグは、現在ほどスカウト活動が成熟しておらず、選手権が開催される12月や翌年1月頃にようやく加入が決まるケースも珍しくはなかった。高校2年生の段階でJクラブ入りが内定する選手も増えている現在とでは、時代が違う。そう言ってしまえば、それまでだろう。

 

 しかし、チャンスはどこに転がっているかわからない。そのことだけは、古今東西を問わず確かである。ましてJクラブにとっても、今年は多くのスカウト活動の場を失った異例の年である。いつもなら起こらなかった意外な発見があっても不思議はない。

 

 選手権で就活―-。今年度の第99回大会は、案外、その好機なのかもしれない。

 

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