選手権欠場。櫻井を失意のどん底から救ったのは…
“前橋育英の14番”は特別な番号だ。
山口素弘(元日本代表)、松田直樹(元日本代表)、青木剛(南葛SC)、青木拓矢(浦和)、小島秀斗(千葉)、鈴木徳真(徳島)。エースナンバーを背負った者の多くがプロの世界に進んだ。そして今年もまたひとり、伝統の14番を身に纏う選手がJクラブ入団内定を勝ち取った。来季からヴィッセル神戸でプレーするMF櫻井辰徳(3年)だ。
最大の武器は左右の足から繰り出すキックと視野の広さ。中盤の底から長短織り交ぜたパスでゲームを作り、隙あらばミドルシュートでゴールを狙う。攻撃のセンスは一級品で、今年の高体連組ではトップクラスの実力を持つ。
すでに2年生だった昨年からエースナンバーを背負ったように、将来を嘱望されていた櫻井は、どのような経緯から神戸入りを決めたのだろうか。
中学時代は埼玉県の東松山ぺレーニアでプレーし、世代別代表とは縁がなかったものの、近隣の同世代選手からは高い評価を得ていた。そのなかで進学した前橋育英では2年次から頭角を現わす。エースナンバーを託された昨夏のインターハイでは初戦で青森山田に敗れたが、初の全国舞台で大きな自信を掴み、その直後にはU-17日本代表に選ばれるなど、確実にステップアップを果たした。
“技術で圧倒できる選手”。ハードワークや球際の強さでは課題を抱えていたが、テクニックで勝負できる喜びを感じながら、冬の選手権へと向かっていった。
9月頃からはスランプに陥ったものの、徐々に本来の姿を取り戻していく。秋の選手権予選では不調が嘘のようなプレーを見せ、チームの優勝に貢献。「2年生で活躍すれば、Jクラブに目を付けてもらえる」と本人が話した通り、並々ならぬ意欲で本大会に向けてモチベーションを上げた。しかし、直前のプリンスリーグ関東で左足首を捻挫。急ピッチのリハビリは功を奏さず、スタンドからチームの初戦敗退を見ることになった。
予想外の結末。今となっては冷静に選手権の欠場を振り返られるが、当時は何も考えられないぐらいに落ち込んだ。櫻井は言う。
「育英の14番がベンチ外で何もできない。俺、何やっているんだろう。チームが負けた瞬間にそう思いました」
大会が終わってからもしばらくは気持ちの整理が付かなかった。そんな櫻井を失意のどん底から救う出来事が起こる。それは神戸への練習参加。2月にトレーニングへ向かうと、そこにいたのはアンドレス・イニエスタ、トーマス・フェルマーレンといったまさにワールドクラスのスター選手たち。山口蛍や酒井高徳といった長きに渡って日本代表を支えてきた実力者もおり、高校生からすれば夢のような場所である。そのなかで目を奪われたのが、やはりイニエスタだった。
「イニエスタは単純にボールを失わないし、ワンタッチで試合を決められる。それが本当に凄かった。僕が参加した時、イニエスタが練習試合で3アシストをしたんです。それが全部ワンタッチのスルーパスからでした。自分もそういうパスを出せるようになりたい。純粋にそう思いました。トラップ際を狙っても飛び込めないんです。飛び込んだら交わされるし、本当に全然違いました。上手い選手と一緒にプレーしたい。そういう気持ちはより強くなりましたね」
「神戸の練習でもっと上手い人がいると感じた」
ピッチ外でも、同じ高体連出身者の郷家友太から神戸の環境がいかに素晴らしいかを伝えられた。
「神戸の練習が一番凄い。蛍さん、高徳さんがいて、世界を代表するイニエスタやフェルマーレンがいる。そのなかでやれれば、成長できるから神戸に来いよ」
他クラブからも話をもらったが、神戸での体験が櫻井の心を動かした。
その出来事は選手権の悔しさを払拭させ、モチベーションを取り戻すことにも繋がった。
「選手権は大きな大会だけどゴールじゃない。神戸の練習でもっと上手い人がいると感じた。練習試合でも自分の力を出せた感触があったけど、練習参加してからはもっとやらないといけないなという気持ちが強くなりました」
選手権の悔しさから立ち直った櫻井は持ち前の技術に磨きをかけると、神戸からも高く評価された。岩見卓スカウトも「技術はプロに入っても教えられないけど、ハードワークは教えられる部分」と話し、正式にオファーを送った。
類まれな技術を持つ一方で、守備の課題も徐々に改善の跡が見られている。前橋育英の山田耕介監督も守備面の改善を求めてきたなかで、最上級生としての自覚が櫻井を変えた。
9月5日に行なわれた矢板中央とのプリンスリーグ関東・開幕戦では、身体を張った守りや泥臭いプレーでチームの勝利に貢献。前半途中にキャプテンのDF大野篤生(3年)が負傷交代した影響で代わりに腕章を巻いたなか、自身も右足を負傷するアクシデントもあったが、誰よりもハードワークをする姿は今までの姿とは一線を画すものだった。そこは本人も去年との違いとして、手応えを明かす。
「去年から出ている選手として、自分が一番やらないといけない。そうしないと、みんなが付いてきてくれません。今年も14番を付けさせてもらっているので、違いを見せないといけない。自分は攻撃を特徴にしているけど、それ以上に球際の強さ、運動量、コーチングをしっかり出していくことで、チームへの貢献度が高まっていく。今年はそういう意識でやっていたので、プレーにも現われた」
この1年間で見違えるように逞しくなった櫻井。プロ入りを決めたことで今まで以上に注目され、厳しいマークに遭うだろう。しかし神戸へ入団するのであれば、乗り越えなければならない壁だ。イニエスタとプレーするためにも、残された高校生活で自らの価値を証明してみせたい。
取材・文●松尾祐希(フリーライター)
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■代表決定日一覧 ▽北海道・東北北海道予選:11月12日青森県予選:11月5日岩手県予選:11月5日宮城県予選:11月5日秋田県予選:10月21日山形県予選:10月21日福島県予選:11月5日 ▽関東茨城県予選:11月12日栃木県予選:11月11日群馬県予選:11月12日埼玉県予選:11月14日千葉県予選:11月11日東京都A予選:11月11日東京都B予選:11月11日神奈川県予選:11月12日山梨県予選:11月11日 ▽北信越・東海長野県予選:11月11日新潟県予選:11月12日富山県予選:11月11日石川県予選:11月5日福井県予選:11月5日静岡県予選:11月11日愛知県予選:11月11日岐阜県予選:11月11日三重県予選:11月11日 ▽関西滋賀県予選:11月11日京都府予選:11月12日大阪府予選:11月11日兵庫県予選:11月12日奈良県予選:11月12日和歌山県...
※2023年10月5日時点 【高体連】▽帝京DF梅木怜(→FC今治)MF横山夢樹(→FC今治) ▽興國MF國武勇斗(→奈良クラブ)MF宮原勇太(→グールニクザブジェ) ▽飯塚DF藤井葉大(→ファジアーノ岡山) ▽大津MF碇明日麻(→水戸ホーリーホック) ▽宮崎日大DF松下衣舞希(→横浜FC) ▽神村学園FW西丸道人(→ベガルタ仙台) ▽鹿児島城西MF芹生海翔(→藤枝MYFC) 【Jクラブユース】▽北海道コンサドーレ札幌U-18FW出間思努(→北海道コンサドーレ札幌) ▽モンテディオ山形ユースGK上林大誠(→モンテディオ山形)DF千葉虎士(→モンテディオ山形)▽浦和レッドダイヤモンズユースMF早川隼平(→浦和レッドダイヤモンズ)▽ジェフユナイテッド千葉U-18DF谷田壮志朗(→ジェフユナイテッド千葉)▽FC東京U-18MF佐藤龍之介(→FC東京)GK小林将天(→FC東京)▽東京ヴェルディ...
高校サッカーの強豪、昌平高(埼玉)の藤島崇之監督が退任することが分かった。習志野高(千葉)、順天堂大出身の藤島監督は、07年に昌平の監督に就任。当時無名の私立校を短期間で3度のインターハイ3位、全国高校選手権8強、“高校年代最高峰のリーグ戦”プレミアリーグEAST昇格など、全国有数の強豪校へ成長させた。 判断力、技術力の質の高い選手たちが繰り出す攻撃的なサッカーが話題となり、また、12年に創設した育成組織、FC LAVIDAとの中高一貫6年指導によって、選手育成でも注目される高校に。現在、7年連続でJリーガーを輩出中で、U-22日本代表FW小見洋太(新潟)やU-17日本代表MF山口豪太(1年)ら多数の年代別日本代表選手も育てている。また、藤島監督は日本高校選抜やU-18日本代表のコーチも務めた。 昌平は近年、男子サッカー部の活躍に続く形で他の運動部も相次いで全国大会出場を果たしてい...
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鹿児島城西のMF芹生は、身体の使い方が上手く、パスセンスも高い司令塔だ。写真:松尾祐希 今年のチームは攻撃陣にタレントが揃う “半端ない”FW大迫勇也(神戸)を擁して選手権で準優勝を果たしてから15年。鹿児島城西が虎視眈々と復権の機会を狙っている。 鹿児島の高校サッカーと言えば――。2000年代の前半までMF遠藤保仁(磐田)やMF松井大輔(YS横浜)らを輩出した鹿児島実がその名を轟かせた。 近年は神村学園が躍進し、昨年度は福田師王(ボルシアMG)やMF大迫塁(C大阪)を擁してベスト4まで勝ち上がったのは記憶に新しい。インターハイは6年連続、冬の選手権も昨年度まで6年連続で出場しており、今季から2種年代最高峰のU-18プレミアリーグ高円宮杯に参戦するまでになっている。 一方で鹿児島城西は前述の通り、2008年度の選手権で日本一にあと一歩まで迫り、以降も神村学園と切磋琢磨し...
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