新型コロナウイルスの終息はまだ先になりそうだが、日常生活にサッカーが戻ってきた。7月11日にはU-19日本代表候補がJFA夢フィールドで5日間の合宿をスタートさせた。困難な日々を経て、プレー再開となったいま、チームを指揮する影山雅永監督にサッカーとの向き合い方を聞いた。
◎インタビューはビデオ会議システムを介して実施しました
取材・構成/川端暁彦 写真/Getty Images、BBM
改めて感じたスポーツの価値
――(新型コロナウイルスの感染拡大の中で)影山監督自身は中断期間をどう過ごしていましたか?
影山 英語は毎日オンラインでずっとやっていますが、それに加えていまはドイツ語を勉強し直しています(ドイツ留学経験を持つ)。本はいろいろ読んでいますし、こういうときだからオンラインで繋いでさまざまな方と話しています。日本オリンピック委員会の方に「他競技の年代別代表の指導者に繋いでほしい」と頼み、いま10人くらいで集まってディスカッションしたりしていますが、これはかなり面白いです。新型コロナウイルスが終息したら、どこかで実際に集まろうという話もしています。
――普段は業務に忙殺されていただけに、逆に新しいチャレンジもできた感じでしょうか?
影山 『サピエンス全史』を著されたユヴァル・ノア・ハラリさんは、「私は大学の講義をオンラインで受講できるようにするべきと主張してきたのに、なかなか受け入れてもらえなかった。ところが、ウイルスが蔓延したら1週間で世界中の大学で実現してしまった。だから今は新しいことを生み、実現するチャンスだ」と話していました。半分は皮肉だと思いますが、うしろ向きに考えても建設的ではないのは確かです。いまできること、いまだからこそできることにフォーカスするべきと思い、やってきました。
――特に考えを深めたり、変わったりしたところはありますか?
影山 根本的な部分ですが、「スポーツとは何か?」ということを改めて考えました。私が住んでいるところはすごく公園の多い地域です。その公園で、サッカーをする子供たちが日に日に増えていったんですよ。どの公園に行っても、みんなサッカーをやるようになりました。私も息子と公園で一緒にやるわけですが、私よりうまいおとうさんもいるんですよ(笑)。
本当にみんな、サッカーがしたくて仕方ないという感じで楽しそうにやっていました。「これこそスポーツだな」と思ったんです。日本におけるスポーツ観については少し変わっている点があり、「◯◯のためにやる」という発想があります。「健康のために」、「忍耐力を養うために」といった手段としてのスポーツになりがちなんです。
――サッカーであれば「協調性を養うために」とも言います。
影山 そうですよね。「社会性を学ぶために」とも。でもスポーツとは、そもそも「喜び」なんです。楽しいからやる、楽しいからボールを蹴るわけです。
――「◯◯のために」ではなく、シンプルに楽しいからやるのです。
影山 「体を動かすことは気持ちいい」という原初的な喜びもそうですし、公園でボールを蹴るだけで「サッカーをするのはこんなに楽しいのか」という気づきがありました。もしかすると、世の中のスポーツに対する意識が変わるきっかけになるかもしれませんし、改めてそれを考えた人は多かったのではないかと思います。
――選手の意識も変わります。
影山 ほとんどの選手にとって、これだけ「やれない」時間があるのは初めての経験でしょう。時間の使い方をもう一度考えた選手もいたのではないかと思います。この間に始めたことをリーグ戦が再開されてからも続けていこうとする選手がいたらうれしいです。
――英会話のオンライン授業などをやるようになった選手がいますが、続けてほしいですね。一冊の本を初めて最後まで読み切ったと言う選手もいました(笑)。
影山 それはどうなのかという気もしますが(笑)。しかし、サッカー選手に時間的余裕がないわけではありません。いろいろなことに取り組んでもらいたいですし、そうするきっかけにもなったと思います。
――気持ちが落ちてしまう選手もいたようですが。
影山 プロ選手ですら難しい精神状態になってしまった選手がいると聞きますし、高校生以下の年代となると余計にそうですよね。
――インターハイや全国中学校サッカー大会も中止となりました。
影山 本当に気の毒なことです。しかし、活動がなくなってしまう競技がある一方でサッカーは冬の大会もありますし、何より育成年代のリーグ戦を整備してきました。普段通りの大会形式ではできなくても、試合をやれる土壌はあります。試合数は少なくなると思いますが、「毎週、試合がある」という地点に戻せると思います。
これは、サッカー界が積み上げてきた成果です。子供たちが試合する環境がゼロにはなりません。全国のJFAトレセンコーチが力を結集してそれぞれの地域の方々と集まって議論してくれていますが、「子供たちが試合をできるように」という思いでみなさんが本当に一生懸命に取り組んでくれて、改めて頭が下がる思いになりました。サッカーファミリーの力は本当にすごいと実感します。
溜まったマグマを爆発させてほしい
――そうなると、影山監督もここら忙しくなりますね。
影山 本当に心苦しかったんです。代表監督の仕事なんて、ほかの指導者のみなさんや選手たちがバリバリ働いていて、その上に乗っからせてもらっているようなもの。だからこそ、ここからは本当にハードワークしていきます。夏の間も練習試合や親善大会はあるでしょう。そこにも私やスタッフが可能な限り足を運びます。
――高校生も諦めずにやっていれば、影山監督の目に留まる機会は出てきますよね。
影山 私たちはまず、アジアの最終予選へ向けてU-19日本代表の準備を当然やるんですが、U-18やU-17のカテゴリーも候補キャンプを実施して、可能性のある選手たちによりレベルの高い環境での刺激を与えられるようにしたいと思っています。アジア最終予選を突破する部分とはまた別に、日本サッカーとして取り組まなければいけない点だと思います。
――中断したことによる影響は何とも言えない部分があります。
影山 過去に練習や試合を3カ月もしていないなんてことはありませんでした。ただ、逆にデータを取りたいと思っています。休み期間で体が大きくなっているかもしれないからです。高校の途中で大ケガをしてしまって練習を休んだら、体が一気に大きくなったという例が結構あるんです。同じような現象が全国で起こっているかもしれません。日本はトレーニングを休みなくやり過ぎているのではないかとの疑問がずっとありました。「体を大きくするために休養はこれだけ大事」、「オフ期間をしっかり設定すれば選手の身長が伸びる」といったデータが出てくるかもしれません。
――総じて前向きに取り組んでいきたいですよね。
影山 新型コロナウイルスの問題には確かに苦しめられていますが、日本にはいろいろな天災から立ち上がってきた経験があります。レジリエンシー(弾力、回復力)の強さを日本は持っています。
――日本サッカーもサッカーファミリーのパワーを見せるときです。
影山 (10月にAFC U-19選手権<2021年に行なわれるU-20ワールドカップのアジア最終予選>を迎えるにあたり、)「U-19日本代表は2回しか合宿できなかったので負けた」なんて言っている場合ではありません。やれる範囲でやれるだけのことをやります。何より、日本サッカーには素晴らしい「サッカーのある日常」があります。タウンクラブや高体連、Jクラブのアカデミーもある中で、その力を結集して戦うのが代表です。
――U-19日本代表候補の選手たちも、こういうときだからこそ奮い立ってほしいですね。
影山 そういう気持ちで再び集まってくれるでしょう。コロナ期間に溜まったマグマを爆発させてほしいと願っています。火を付けなくてもすでに付いていると思うので、その気持ちを思い切り出させてあげたいです。マグマが溜まっているのは私も同じです(笑)。自宅から徒歩圏内に高円宮記念JFA夢フィールドがあるのに練習ができず、悔しかったですから。
――そうやってマグマを爆発させる指導者のみなさんが全国にたくさんいるであろうことが日本サッカーの強みです。
影山 この期間に少年団、中体連、高体連、タウンクラブの方のさまざまな苦労を聞きましたし、いろいろな取り組みも聞かせてもらいました。すべてが「選手のために」という気持ちを感じました。熱い気持ちは子供たちにきっと伝わりますし、必ず日本サッカーの力になります。いろいろな方が中断期間で努力してきたことは、きっと大きなレジリエンシーを生んで、必ずやコロナ以前よりも強いモノをつくり出していくと確信しています。そうやってみなさんが回復させ、育ててくださった選手たちを借りて戦うのが代表チームです。まずは来年のU-20 ワールドカップへ向けて、日本のサッカーファミリーを代表して全力で戦い抜きたいと思います。
プロフィール
影山雅永(かげやま・まさなが)/1967年5月23日生まれ、福島県出身。ジェフユナイテッド市原(当時)などでプレーし、96年に現役から退く。97年から2年間、日本代表のテクニカルスタッフとして働く。98年にドイツに留学し、1.FCケルンのU-16を指導。2001年から04年までサンフレッチェ広島のトップチームでコーチを務めた。マカオ代表監督、U-16シンガポール代表監督などを歴任し、10年から14年まではファジアーノ岡山で監督として采配を振るう。17年にアンダー世代の日本代表監督に就任し、19年のU-20ワールドカップでベスト16の成績を残した。20年はU-19日本代表監督として、21年に行なわれるU-20ワールドカップ出場を目指す
森田記者が推薦するMF長田叶羽(ガンバ大阪ユース、3年) 7月22日に開幕する夏のクラブユースチーム日本一を懸けた戦い、第48回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会の注目プレーヤーを大特集!「クラセン注目の11傑」と題し、ユース年代を主に取材するライター各氏に紹介してもらいます。第1回は関西の高校生を中心に各カテゴリーを精力的に取材する森田将義記者による11名です。 森田記者「すでにトップチームに欠かせない戦力になりつつある広島ユースのMF中島洋太朗。6月の新潟戦でJ1デビューを果たした鹿島ユースのFW徳田誉。高3ながらもこの夏、海外に渡る熊本のFW道脇豊。今年はアカデミー出身の若い選手の飛躍が目を惹きますが、クラブユース選手権(U-18)には彼らに続く可能性を秘めた選手がまだまだ存在します。今回は夏の祭典を機にブレークを果たしてくれると期待し、見た試合でのインパクトが...
[4.14 プレミアリーグWEST第2節 静岡学園高 0-3 神戸U-18 時之栖スポーツセンター 時之栖Aグラウンド(人工芝)] 相手が素晴らしいチームなのはわかっている。間違いなく攻撃的に来るであろうことも、容易に想像が付く。だからこそ、自分たちも引くつもりなんて毛頭ない。アグレッシブに打ち合って、その上で勝ち切ってやる。クリムゾンレッドの若武者たちは、勇敢な決意をハッキリと携えていたのだ。 「本当にこのリーグは難しいリーグなので、正直勝ててホッとしています。それも『こういうサッカーをしようよ』ということを、自分たちがある程度しっかり出した上で結果も付いてきたので、そこが凄く喜ばしいかなと思っています」(神戸U-18・安部雄大監督)。 真っ向からぶつかって3発を叩き込み、2試合目で掴んだ初白星。14日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 WEST第2...
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