ベテラン指導者に聞く 子供の将来を見据えたテクニック指導とは?
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テクニックに関する選手育成において高い評価を得る千葉県のJSC CHIBA。このクラブで代表を務めるのが、ベテラン指導者の川島和彦氏だ。これまでに5000人以上のジュニア年代の選手を指導し、上のカテゴリーに送り出してきた川島代表に、テクニック指導のあり方を聞いていく。

 

取材・構成/鈴木智之 写真/矢野寿明

 

ドリブルで割って入れる選手

 

――JSC CHIBAの選手たちは、市立船橋高校をはじめとする強豪チームに数多く進みます。ジェフユナイテッド千葉でトップ昇格を果たした櫻川ソロモン選手や2021年のベガルタ仙台入りが内定している真瀬拓海選手(市立船橋高校→阪南大学)もその一人ですが、上の年代で活躍するには、テクニックがやはり必要と改めて感じるものは何かありますか?

 

川島 JSC CHIBAのOBが高校などでプレーする姿を見て、通用していると感じるのは、「ボールをさらしながら前に運ぶプレー」です。JSC CHIBAは日本人選手のプレーではあまり見られない、人と人との間にスピードに乗って入っていくドリブルや、ボールを運ぶ推進力といった部分に、こだわって取り組んでいます。

 

 ドリブルで運んでシュートを打てれば、それでいいでしょう。もし打てなくても、ディフェンスの間に割って入ることで相手が下がり、質の良いセカンドボールがこぼれてきます。

 

――相手を押し込んでからセカンドボールを拾って攻撃する形は、得点につながりやすいパターンです。

 

川島 まずは守備の中央に突破を仕掛けてこぼれたボールを拾い、そこからサイドに展開して裏のスペースを狙うのは、定石の一つです。最初にドリブルで中央に割って入るからこそ、連なるプレーになるのだと思います。JSC CHIBAのOBで、高校やJクラブのユースに行っても活躍する選手は、ドリブルで割って入る役割を担う選手が多いんです。

 

 常識の中でプレーしても、相手の守備を崩すことはできません。常識を破るようなチャレンジをする選手が必要ですし、JSC CHIBAのOBが高校、大学、さらにはJリーグでも攻撃的な選手として評価されるのは、そういうメンタルを持ってプレーできるからだと思います。

 

――テクニックが上達する上でのメンタル面のポイントはどういった点になりますか?

 

川島 サッカーはボールを足で扱うスポーツなので、ボールに触る時間が長ければ長いほど、上手になる可能性が高くなります。では、長い時間ボールに触るためには何が必要かと言えば、ボールに触って楽しいと感じる気持ちや「こうなりたい!」と思うモチベーションです。モチベーションを高めるための燃料となるのが向上心や目標で、その気持ちを持ちながらボールにたくさん触る子はテクニックを身につけると思います。

 

失敗を積み上げた先に成功はある

 

――テクニックの習得に関して、ヨーロッパで主流となっている考え方は「実戦形式の中で身につけること」ですが、それについてはどう思いますか?

 

川島 まったく同感です。最高の練習はゲーム(試合)だと思うので、ゲーム形式の練習をたくさんやるべきでしょう。グリッドのサイズ、人数、相手の強度を変えながらゲームをすることが、実戦的なテクニックを身につけるやり方だと思います。

 

 ただ、歴史を含めたヨーロッパの環境と日本の環境や文化を比べたときに、彼らとまったく同じことをして、果たして成果が出るのかという疑問を感じます。ヨーロッパをベースとして考えるのであれば、それに対して新しい工夫をすることが大切で、その味付けの仕方は指導者によって変わるのではないかと思います。

 

――日本人に合った指導方法を見つけなければいけないということでしょうか?

 

川島 そう感じます。仮に私がスペインに行って、JSC CHIBAで普段やっているコーンドリブルのトレーニングを行なっても、成果は出ないと思います。日本の子供たちとスペインの子供たちとでは、特性や気質が違うからです。

 

 私が中国で指導をしていたときに、スペイン人コーチと話をする機会がありました。彼は中国のクラブで指導するスペイン人なのですが、「中国人の子供にドリブルを教えるのは大賛成」と言っていました。一方で、「スペイン人にドリブルだけを教えるスクールをやっても意味がないだろう」とも話していました。

 

――なぜ、彼はそう考えたのでしょうか?

 

川島 スペインでは、子供の頃から、ミニゲームでドリブル技術を身につけるそうです。「だから、クラブに入るような子は、全員がある程度のドリブルができる」と言っていました。でも、中国ではミニゲームでドリブル技術を身につける環境も文化もないので、ドリブルのやり方を教える必要があります。「中国の子供はテクニックの身につけ方を知らないし、やり方も分からないので、ドリブルトレーニングのスクールは有効だ」と話していました。

 

 日本はスペインと中国のちょうど中間のレベルにあります。スペインほど、子供がミニゲームを行なう環境が少ないのであれば、ドリブル練習の効果は大きいと考えています。

 

――非常に分かりやすいです。

 

川島 ただ、そのスペイン人のコーチが言うには、「スカウトがどういう子を探しに行くかというと、ドリブルができるテクニシャン」とのことでした。「小さい頃は、全員抜けるのであれば、ドリブルで行けと指示するコーチは多い」とも話していました。

 

――ドリブルを含めた、ボールコントロールのテクニックを高めるために必要なことは何でしょうか?

 

川島 失敗を積み上げる過程を経て成功にたどりつくことしかないと思います。失敗を積み上げた先にしか成功はありません。そう考えると、子供の頃の早い時期にたくさんの失敗を経験しておいたほうが良いのです。

 

 ジュニアやジュニアユースの年代で「失敗しないように」という指導をしてしまうと、積み上げた先までたどりつくことはできません。例えば、ジュニアの時期に、突破を100回仕掛けた選手と1000回仕掛けた選手とでは、失敗の積み上げが違います。状況を見てパスをするのももちろん大切ですが、あえてドリブルで仕掛けて奪われることによって、「次はどうすればいいんだろう?」と考えるのが大事なわけです。特長を持つ選手を育てるためにも、その本質を外してはいけないと思います。

 

プロフィール

 


川島和彦(かわしま・かずひこ)

1967年生まれ、千葉県出身。JSCCHIBA代表兼U-12監督。17歳のときにJSC CHIBAの前身である院内サッカー少年団で指導を始めた。独自のメソッドを日本各地で展開し、2017年からは中国でも指導。日本サッカー協会公認C級コーチ。「差がつく練習法 サッカー 個を強くするドリブル練習」、「サッカー 選手の潜在能力を引き出すトータル育成メニュー」(小社刊)など、著書多数

 

 

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