コロナ禍の現在、高校生活最後の年を過ごす3年生の選手たちは、どんな思いを抱いているのだろうか。夏のインターハイ中止をどう受け止め、冬の選手権や自身の進路についてどう考えているのか。青森山田高の藤原優大、昌平高の須藤直輝、静岡学園高の田邊秀斗。高校サッカー界を代表する有力プレーヤー3人に話を聞いた。
逆境にもブレない精神的な強さ
3冠達成という大目標は、インターハイ中止により戦わずしていきなり望みが絶たれてしまったが、藤原擁する青森山田は気持ちを切り替えて前に進む【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】
●藤原優大 (ふじわら・ゆうだい)
(青森山田高3年/DF)
[出身地]青森県
[生年月日]2002年6月29日
[身長・体重]182cm・70kg
[経歴]青森山田中→青森山田高
[代表歴]U-15、U-17、U-18
青森山田高校(青森)のU-18日本代表DF藤原優大(3年)は、今年度の高体連で“最強”のセンターバックだ。昨年度は2年生ながら堅守・青森山田の最終ラインの柱としてプレミアリーグファイナルで優勝し、全国高校選手権でも準優勝。182センチの長身に加え守備センスが非常に高く、その動き、落ち着きからゲームを支配しているかのような印象も受けるDFを巡っては、現在、複数のJ1クラブによる争奪戦が繰り広げられている。
今回のコロナ禍によってインターハイが中止となり、藤原、また青森山田にとっての目標がひとつ失われた。
「自分たちが目標としていた3冠が試合もせずになくなってしまいました。全力で目指していたので、相当ショックでした」
史上初となるインターハイ、選手権、プレミアリーグの3冠という大目標。新型コロナウイルスで苦しんでいる人々、命を落としている人々もいる中で、スポーツを優先するべきではないことは理解しているが、インターハイでの全国制覇を仲間たちと本気で目指していただけに、悔しさはある。
コロナ禍は自身の進路決定にも影響を及ぼしているようだ。
「早めに(入団する)チームを決めさせてもらって、自分の進路をイメージしながらサッカーをしたいと思っていました」
プロ1年目から活躍するため、早い段階で進路を一本化する考えだったが、高校もJクラブも活動がストップしている中では決断に至っていない。自分自身の悩みももちろんあるが、同級生たちは公式戦でJクラブや大学へのアピールができない状況。だからこそ、チームリーダーは不安を抱える他の3年生たちを気遣っていた。
青森山田では自主練習期間を経て、ゴールデンウィーク明けから全体練習を80分間限定で再開。5月末時点でも分散登校が続くなど、まだ日常が戻ってきたわけではないが、首都圏をはじめ、全国の多くの地域では学校再開、活動できていないサッカー部も多いだけに、「サッカーができる環境に感謝して、練習時間の中で集中してやろう」と話し合って一日一日を大事に練習している。
青森山田の強さは我慢強さ、逆境にもブレない精神的な強さにある。「(活動が再開され)みんなももう1回頑張ってサッカーをやろうという気持ちになっていると思います。インターハイはなくなりましたけれども、(可能なタイトルを全て獲得して)目標の3冠により近づけるように全員で頑張って行こうと話しています」
藤原が安心感をチームに与え、全員でコロナ禍を乗り越える。
絶対に選手権を獲りたい
大宮U-15でプレーした須藤(中央)が、クラブを離れ昌平でサッカーをする道を選んだのは選手権優勝を果たすため。辛い状況にあっても、強い決意を胸に抱き続けている【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】
●須藤直輝 (すとう・なおき)
(昌平高3年/MF)
[出身地]埼玉県
[生年月日]2002年10月1日
[身長・体重]168cm・62kg
[経歴]大宮アルディージャU-15→昌平高
[代表歴]U-15、U-16、U-17(候補)
MF須藤直輝(3年)は近年急激に台頭してきている昌平高校(埼玉)で入学当初から10番を背負う名手だ。昨年度の全国高校選手権で2年生ながらキャプテンマークを巻いた須藤は、テクニカルなドリブルで幾度もチャンスを生み出し、自身も2ゴール。チームの全国8強に貢献し、2年連続で日本高校選抜候補に選出されている。すでにJ1クラブの練習への参加も経験。一方で学力も高く、大学進学も見据えている選手だ。
コロナ禍によるインターハイ中止発表に1週間ほど立ち直れなかったという須藤だが、他競技の選手たちが切り替えてSNSに前向きな発信をしているのを見て、気持ちを奮い立たせた。「自分もキャプテンですし、高校サッカーの中で発信力がある立ち位置にいるので、自分がヘコんでいたらダメなんじゃないかなと思って、『じゃあ、選手権に切り替えてやろう』という気持ちになりました」
高校サッカー界で注目されている選手として、自分に何ができるのか考えた。そして、ツイッターやインスタグラムを活用してインターハイ中止によって落ち込む高校生を勇気づけたという。
また、チームメイトには「インターハイがないから、オレは絶対に選手権を獲りたい。この期間を勉強だけでなく、サッカーに時間を費やして自分の課題と向き合ってほしい」とメッセージ。首都圏にある昌平は他地域に比べて、練習再開までの道のりが遠い。“サッカー小僧”の須藤は「つらいです」と口にするが、それでもJクラブアカデミーから高校サッカーを選んだ理由である選手権優勝のため、また将来のために自主練、自宅学習を両立しながら練習再開の日を待ち続けている。
コロナ禍で多くの人に支えられていることを再確認したMFは、サッカーで恩返しするという考えだ。「たくさんの人が応援してくれているので、このつらい状況で自分たちが日本中に希望、笑顔をサッカーで届けたいと思っています」。選手権優勝という決意とこの思いは常に持ち続けていく。
プロ入りか、大学進学か、注目の進路については、「五分五分で決まっていないです」という状況だ。Jクラブのキャンプには参加したが、普段の練習への参加も希望。また、大学の環境をしっかりと見た上で、プロ、大学のどちらへ進むかを判断する。進路決定が遅くなることや、選択肢が少なくなるのは覚悟の上。情勢が変わってから、可能な限り候補の環境、雰囲気、練習に触れてから、将来のためにベストの選択をする。
選手権連覇とプロに認められるために
選手権連覇を目指す静岡学園の田邊には、まだJクラブからの具体的な入団の打診はない。大学進学も視野に入れるが、あくまで望みはプロになることだ【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
●田邊秀斗 (たなべ・しゅうと)
(静岡学園高3年/DF)
[出身地]京都府
[生年月日]2002年5月5日
[身長・体重]180cm・68kg
[経歴]奈良YMCAジュニアユース→静岡学園高
[代表歴]U-18
昨年度の全国高校選手権で24年ぶりに優勝した静岡学園高校(静岡)にも、プロ入りが有力視されている選手がいる。それは、DF田邉秀斗(3年)だ。もともとセンターバックだったが、昨春にサイドバックへコンバートされ、選手権でブレーク。180センチの長身と50メートルを5秒台で走る快足の持ち主は、絶対の自信を持つ対人守備の強さや高さを印象づけた。選手権後にはU-18日本代表、日本高校選抜候補に初選出。複数のJクラブが関心を寄せている大器だ。
田邉はコロナ禍が長期化したことで、寮のある静岡市から地元の関西へ戻り、中学時代の友人たちとともにボールを蹴ったり、チームから指示されている体幹メニューなどの自主練習に取り組む毎日。「どれだけボールを触っていても、ゲームをやっていないと感覚を失ってしまう。試合感覚がなくなってしまうことが怖い」と語る。1月にU-18日本代表のスペイン遠征に参加し、国際経験も積んで成長を実感していた時期にぽっかりと3カ月間もの穴が空いてしまった。将来性豊かな成長株が、思い切りサッカーをできない状況はとても残念だ。
また、「去年、県大会決勝で負けていたので借りを返したかった。いろいろなJクラブや強い大学の方に目をつけてもらおうと自分もモチベーションを上げていた」インターハイも中止。チームメイトからは「悔しい」「どこにモチベーションを持って行けばいいのか分からない」という声もあるという。選手権王者として、各校からターゲットにされる中での戦いは成長、アピールのチャンスだったはず。それでも、今の情勢を受け入れるしかない。コーチ陣からの「今は耐える時期」という言葉を胸に、選手権開催を信じて努力を続けている。
田邉はプロ志望だが、まだJクラブからの具体的な打診はない。その中で田邉は、「自分はもしプロに行かせてもらったとしても、引退した後のことを考えて勉強は人並み以上にはしています。一応大学は行ける準備はしています」。大学進学の可能性を考えながら、プロへのアピールを目指していく。
連覇の懸かる選手権は、何としても仲間たちとともに戦いたいという思いがある。
「そこまでにコロナが終息してもらうことを願って、そこにしっかりと照準を合わせて、モチベーションを持っていきたいです」
静岡学園は6月から学校活動を再開予定。選手権で連覇するチームになるために、またプロに認めてもらう選手になるために、再開後の一日一日を大事にして目標達成を目指す。
(企画構成:YOJI-GEN)
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※2023年10月12日時点 【高体連】▽帝京DF梅木怜(→FC今治)MF横山夢樹(→FC今治) ▽市立船橋FW郡司璃来(→清水エスパルス) ▽桐光学園MF齋藤俊輔(→水戸ホーリーホック) ▽興國MF國武勇斗(→奈良クラブ)MF宮原勇太(→グールニクザブジェ) ▽飯塚DF藤井葉大(→ファジアーノ岡山) ▽大津MF碇明日麻(→水戸ホーリーホック) ▽宮崎日大DF松下衣舞希(→横浜FC) ▽神村学園FW西丸道人(→ベガルタ仙台) ▽鹿児島城西MF芹生海翔(→藤枝MYFC) 【Jクラブユース】▽北海道コンサドーレ札幌U-18FW出間思努(→北海道コンサドーレ札幌) ▽モンテディオ山形ユースGK上林大誠(→モンテディオ山形)DF千葉虎士(→モンテディオ山形)▽浦和レッドダイヤモンズユースMF早川隼平(→浦和レッドダイヤモンズ)▽ジェフユナイテッド千葉U-18DF谷田壮志朗(→ジェフユナイテッド...
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■代表決定日一覧 ▽北海道・東北北海道予選:11月12日青森県予選:11月5日岩手県予選:11月5日宮城県予選:11月5日秋田県予選:10月21日山形県予選:10月21日福島県予選:11月5日 ▽関東茨城県予選:11月12日栃木県予選:11月11日群馬県予選:11月12日埼玉県予選:11月14日千葉県予選:11月11日東京都A予選:11月11日東京都B予選:11月11日神奈川県予選:11月12日山梨県予選:11月11日 ▽北信越・東海長野県予選:11月11日新潟県予選:11月12日富山県予選:11月11日石川県予選:11月5日福井県予選:11月5日静岡県予選:11月11日愛知県予選:11月11日岐阜県予選:11月11日三重県予選:11月11日 ▽関西滋賀県予選:11月11日京都府予選:11月12日大阪府予選:11月11日兵庫県予選:11月12日奈良県予選:11月12日和歌山県...
※2023年10月5日時点 【高体連】▽帝京DF梅木怜(→FC今治)MF横山夢樹(→FC今治) ▽興國MF國武勇斗(→奈良クラブ)MF宮原勇太(→グールニクザブジェ) ▽飯塚DF藤井葉大(→ファジアーノ岡山) ▽大津MF碇明日麻(→水戸ホーリーホック) ▽宮崎日大DF松下衣舞希(→横浜FC) ▽神村学園FW西丸道人(→ベガルタ仙台) ▽鹿児島城西MF芹生海翔(→藤枝MYFC) 【Jクラブユース】▽北海道コンサドーレ札幌U-18FW出間思努(→北海道コンサドーレ札幌) ▽モンテディオ山形ユースGK上林大誠(→モンテディオ山形)DF千葉虎士(→モンテディオ山形)▽浦和レッドダイヤモンズユースMF早川隼平(→浦和レッドダイヤモンズ)▽ジェフユナイテッド千葉U-18DF谷田壮志朗(→ジェフユナイテッド千葉)▽FC東京U-18MF佐藤龍之介(→FC東京)GK小林将天(→FC東京)▽東京ヴェルディ...
高校サッカーの強豪、昌平高(埼玉)の藤島崇之監督が退任することが分かった。習志野高(千葉)、順天堂大出身の藤島監督は、07年に昌平の監督に就任。当時無名の私立校を短期間で3度のインターハイ3位、全国高校選手権8強、“高校年代最高峰のリーグ戦”プレミアリーグEAST昇格など、全国有数の強豪校へ成長させた。 判断力、技術力の質の高い選手たちが繰り出す攻撃的なサッカーが話題となり、また、12年に創設した育成組織、FC LAVIDAとの中高一貫6年指導によって、選手育成でも注目される高校に。現在、7年連続でJリーガーを輩出中で、U-22日本代表FW小見洋太(新潟)やU-17日本代表MF山口豪太(1年)ら多数の年代別日本代表選手も育てている。また、藤島監督は日本高校選抜やU-18日本代表のコーチも務めた。 昌平は近年、男子サッカー部の活躍に続く形で他の運動部も相次いで全国大会出場を果たしてい...
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鹿児島城西のMF芹生は、身体の使い方が上手く、パスセンスも高い司令塔だ。写真:松尾祐希 今年のチームは攻撃陣にタレントが揃う “半端ない”FW大迫勇也(神戸)を擁して選手権で準優勝を果たしてから15年。鹿児島城西が虎視眈々と復権の機会を狙っている。 鹿児島の高校サッカーと言えば――。2000年代の前半までMF遠藤保仁(磐田)やMF松井大輔(YS横浜)らを輩出した鹿児島実がその名を轟かせた。 近年は神村学園が躍進し、昨年度は福田師王(ボルシアMG)やMF大迫塁(C大阪)を擁してベスト4まで勝ち上がったのは記憶に新しい。インターハイは6年連続、冬の選手権も昨年度まで6年連続で出場しており、今季から2種年代最高峰のU-18プレミアリーグ高円宮杯に参戦するまでになっている。 一方で鹿児島城西は前述の通り、2008年度の選手権で日本一にあと一歩まで迫り、以降も神村学園と切磋琢磨し...
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