ユース取材ライター陣が推薦する「インハイ予選で是非見たかった11傑」vol.1
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土屋氏が推薦する國學院久我山高MF田中琢人(右)。(写真協力=高校サッカー年鑑)

 

 新型コロナウィルス感染症の影響によって、インターハイ(令和2年度全国高校総体)が中止に。高校生プレーヤーにとって目標の一つが失われました。手洗いやうがいを徹底し、“3密”を避けながら可能な範囲内で努力をして、晴れ舞台を目指していた高校生たちのことを思うと残念でなりません。今回、「インハイ予選で是非見たかった11傑」と題し、ユース年代を主に取材するライター陣から各11選手を紹介してもらいます。難しい状況が続きますが、少しでも多くの高校生プレーヤーを知ってもらう機会に、また選手権や将来へ向けたモチベーションになることを期待しております。第1回は(株)ジェイ・スポーツで『デイリーサッカーニュース Foot!』を担当する傍ら、東京都中心にユース年代のチーム、選手を取材、そしてゲキサカコラム『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』も連載中の土屋雅史氏による11名です。

 

 土屋氏「今回は新型コロナウイルスの影響で、残念ながら全国総体の中止という決断が下されました。この大会を目指してきた全国中の高校3年生のことを考えると、とにかく胸が痛みます。そんな状況ではありますが、今回は『もし総体予選が行われていたら、是非見たかった11人の選手』を東京都の高校に絞って、選出しています。もちろんこの春以降はまったく試合を見ることができていないため、昨年の情報がメインではあるとはいえ、間違いなく今年の東京の高校年代を彩ってくれるような精鋭揃い。彼らも含めて、高校生のサッカー部員たちに公式戦を戦うことのできる日が訪れることを祈っています」

 

以下、土屋氏が推薦する11名

 

GKバーンズ・アントン(大成高2年)

 

その才能が突然ベールを脱いだのは、昨年の総体予選準決勝。高校入学後の公式戦初出場が、大成にとって初めての全国を懸けた帝京高との一戦というシチュエーションにも関わらず、「今日は彼に託しました」という豊島裕介監督の期待に応え、安定したプレーでPK戦での勝利に貢献してみせた。FCトリプレッタJY時代はレギュラーを獲り切れなかったにもかかわらず、他の強豪校やJクラブユースも目を付けていたように、ポテンシャルは抜群。ただ、豊島監督は「片付けをする姿や、ケガした人へ真っ先に駆け寄る姿勢を見て」獲得を決めたという、なお、全国総体での初戦敗退という苦い経験を受け、「それまでは1年生という括りでやっていた気がしたので、それを全部なくして、もうフィールドに入ったら学年は関係なくやれるようになりました」と自身の成長も口に。「注目されていても自分のやることは変わりません」と言い切れる落ち着きも魅力的だ。

 

DF山川高輝(帝京高3年)

 

「付けて、回って、走って、受けて、みたいなプレーでオーバーラップしたりということは結構意識してやっています」とは本人の弁。まさに『付けて、回って、走って、受けて』を90分間続けられるアグレッシブさと持久力は、プリンスリーグ関東で対戦した並み居る猛者を相手にしても十分通用。オーバーラップを「自分も結構キツいですけど、相手も疲れさせるような感じです。上がってから戻るのは大変とはいえ、またそこからアシストとかできたら気持ち良いので、結局上がっちゃいますね」と捉えるあたりに、サイドバックの適性が滲むが、現在はサイドハーフにトライしているとのこと。昨年は選手権予選に入ってスタメン落ちした悔しさを、今年にぶつける覚悟は整っていることだろう。なお、憧れの選手は「動画とかも見て、オーバーラップとか凄く良いタイミングで行きますし、守備面でも凄く体を張っているので、参考にしています」という鹿島アントラーズの内田篤人。

 

DF大田礼玖(成立学園高3年)

 

中学時代はソシエタ伊勢SCで光田脩人(名古屋グランパスU-18)とチームメイトだったが、「成立学園のパスサッカーへのこだわりを自分の目で見て感動したので」、ゼブラ軍団で選手権の舞台を目指そうと決意して三重から上京。「誰にも負けないスピードとフォワードへのロングフィード、サイドハーフの背後に蹴るボールが武器」と自ら語るストロングを生かして、2年時からセンターバックの定位置を勝ち獲っている。昨年度の選手権予選では、準決勝で國學院久我山高に0-1と惜敗に見えるスコアに反して、積み上げてきたスタイルがほとんど出せなかった悔しさから、改めてパスの1本1本にこだわるような意識をトレーニングから構築。大舞台でのリベンジを誓いつつ、「負けたくない気持ちが前面に出ているプレーが魅力的」と参考にしている浦和レッズの槙野智章のように、攻守両面で効いているセンターバックを目指し、夢のプロ入りに向けてさらなる成長を遂げていく。

 

DF井上太聖(堀越高3年)

 

空中戦では昨シーズンから都内でも屈指の能力を誇っており、本人も自身の特徴にはカバーリングの範囲の広さと併せて、ヘディングを挙げるほどのエアバトラー。もともとセルフコントロールに課題を抱えていたものの、2年になってほとんどの公式戦に出場したことで「自分自身をコントロールできるようになって、どの試合でも力を発揮できるようになりました」と振り返るように、波のない安定したパフォーマンスを継続的に維持。共に敗れたとはいえ、総体予選準々決勝の大成高戦、選手権予選準決勝の帝京高戦では、難敵相手にそのポテンシャルの高さを堂々と示してみせた。2つ上に当たる兄の優太は国士舘高で選手権の舞台に立っており、「兄貴が全国大会の駒沢のピッチでプレーしている姿がカッコ良くて、『自分もあの舞台に立つんだ』『兄貴を超えるんだ』と思って練習をしてきました」とも。この夏の無念を糧に、最大の目標である選手権予選での東京制覇を手繰り寄せる準備に余念がない。

 

DF五賀駿也(東久留米総合高3年)

 

東久留米総合の新3年生の中で、ただ1人冬の全国の舞台を踏んだ男は、「普段はとても大人しくて物静かな生徒なんです」と評する加藤悠監督も驚いたという、自らの志願でキャプテンに就任。「もう一度あの舞台で戦いたいという強い気持ちを持つことが、今のこの厳しい状況の中でも日々のモチベーションとなっています」と前を向き、晴れ舞台への帰還を待ち侘びている。1つ上の代では「1対1や球際の強さ、粘り強い守備が特徴だと思っています」と自ら語る守備力が評価され、センターバックやボランチも務めつつ、全国には左サイドバックで出場したが、今シーズンはセンターバック起用が濃厚。両足でのフィードも正確で、攻撃の起点になることも期待されている。目指すのは昨年のチームが醸し出していた一体感。「去年の先輩たちのような、結束力のあるチームを作っていきたいです」と口にする新キャプテンの存在が、東京連覇のカギを大きく握っている。

 

DFク・ソンハッ(東京朝鮮高3年)

 

サイドバックに挑戦し始めて間もなかった昨年のイギョラカップでは、夏の全国総体王者となる桐光学園高相手に、積極的なオーバーラップや左足からのプレースキックでチャンスを創出。その後も「守備面は完璧にこなし、攻撃面ではパスもドリブルもでき、精度の高いクロスで攻撃参加できるキム・ミョンス先輩を参考にしていました」という1歳上の“お手本”の影響に加え、自分のミスが失点に直結した時も「仲間が励ましてくれたり、アドバイスをくれることが本当に助けになって、失敗しても良いから挑戦することができるようになりました」とチームメイトの理解も得て、シーズンを通じて左サイドバックのレギュラーとして躍動した。悲願の全国初出場を狙う今年は副キャプテンに就任。「去年から試合に出させてもらって得た経験値をみんなに分けてあげられるようにしながら、主将に全部任せないように、自分がチームを引っ張るぐらいの気持ちで頑張っていきます」と自覚も十分だ。

 

MF桑山侃士(東海大高輪台高3年)

 

時にはセンターバック。時にはボランチ。時には1トップ下。そして、時にはセンターフォワード。「個人的には一番前がいいですけど、真ん中だったらどこでもできるという感じです」と自ら話すスーパーユーティリティも、勝負の3年目はボランチを任されることが多くなりそうだが、「戦術眼が高いので、どこでもできる」と川島純一監督も信頼を寄せる。彼が都内に衝撃を与えたのは、昨年の総体予選一次トーナメントブロック決勝。ハーフウェーラインを少し越えたあたりから、いきなり右足で狙ったシュートはGKの頭上を破って、ゴールへ吸い込まれる。しかも「ああいうゴールは結構多かったです」とサラッと笑ってみせる感じも頼もしい。ある試合後に話を聞いていると、先輩たちをことごとく“あだ名的な呼び捨て”で呼んでおり、それを尋ねると「サッカー中に上下関係は一切ないですね。結構みんな仲良いです」とのこと。プロ志望だという逞しいメンタルを垣間見た気がした。

 

MF笠井佳祐(関東一高3年)

 

1年時から公式戦には出場してきたものの、頭角を現したタイミングが夏過ぎだったため、同級生の鹿股翼、菅原涼太、類家暁がピッチに立った三重での全国総体はメンバー外。晴れ舞台は未経験のままで最終学年を迎えることとなった。小野貴裕監督も「スケール感があるんですよね」と認める通り、“カンイチの司令塔”としては大柄なタイプで、自ら運んで仕掛けられる推進力も持ちつつ、「自分は裏抜けが結構得意なんです」と評するようなフィニッシュワークに受け手として関われるセンスも。10番を託されたことで、「過去の先輩に比べるとまだ全然試合を決められないですし、勝たせることもまだできないので、もっとプレーでチームを引っ張っていかないといけないのかなと思います」と主力としての自覚も芽生えてきた様子。関東一が結果を出してきた代では、必ずVIVAIO船橋SC出身者が主力を張ってきただけに、同クラブ育ちの笠井に掛かる期待も決して小さくない。

 

MF田中琢人(國學院久我山高3年)

 

1年時は同じ中盤を主戦場にする大窟陽平がレギュラーを掴んだのに対し、なかなか出場機会を得られなかったが、2年に進級した昨シーズンは、久我山のエースナンバーとして知られる14番を託され、「これから似合う選手になっていきたいですけど、『14番が重いな』って感じはありますね」と本人は口にしながらも一気にブレイク。Jスカウト陣も注目する存在へと成長した。足元の正確な技術や、狙い所を広範囲に隠し持つパスセンスなどはまさに歴代の“久我山の14番”感がある中で、178センチというサイズが攻守に生きる場面も多々。昨年度の選手権2回戦では、1人退場者を出して10人の戦いを強いられながら、「運動量を増やして、もう一歩出るという所に意識を持って行きました」と守備でも奮闘。専修大北上高をPK戦で退けた一戦の、陰のMVP的なパフォーマンスも披露した。普段はどちらかと言うとフワッとした雰囲気を纏っており、掴み所のない感じがまた面白い。

 

MF原幸士朗(駒澤大高3年)

 

2018年の年末に開催された横山杯では、中盤でプレスのスイッチとして1年生ながら優勝を経験。 全国に臨む選手権のメンバー30人の中にも入り、期待を寄せられていたが、昨シーズンはAチームの公式戦にほとんど関われず、「1年生の頃よりも圧倒的に、ピッチ内でもピッチ外でも考えることが多くなりましたし、何が足りないのか、短所は何か、自分なりに様々な考え方を持ちました」と改めて自らを見つめ直す1年に。奮起した今シーズンは、亀田雄人ヘッドコーチも「アイツは頑張って伸びましたね」と認めるパフォーマンスで、主力の一角を担いつつある。お手本にしている選手にはエンゴロ・カンテ(チェルシー)やジョルジニオ・ワイナルドゥム(リヴァプール)を挙げており、「相手に対してのプレスの強さ、パスコースを読んでのインターセプトはさらなる成長の実感ができています」と本人も語る守備面での貢献のみならず、攻撃面でも“数字”を残せるよう、さらなるステップアップを期す。

 

FWアイクソエ怜生オーエンス(早稲田実高3年)

 

柴山昌也(大宮アルディージャU18)、須藤直輝(昌平高)、大澤昌也(鹿島学園高)らと同期だった大宮アルディージャジュニアユースから、ユースへの昇格が叶わず、「高校3年間でしっかりと自分に合ったプレーができて、活躍できる場を考えたのと、大学までの長いスパンで見た時に、『早稲田大学のア式蹴球部に行きたいな』と思って」早稲田実へ進学。1年時にサイドハーフからフォワードへコンバートされると、選手権予選ではゴールも記録し、大舞台での勝負強さも証明。昨年からは10番を背負い、チームを最前線で牽引している。森泉武信監督が「瞬間的なスピードと相手と競り合った時の体幹の強さで差が出てくるんです」と表現したように、ナイジェリア人の父譲りのしなやかな身体能力は魅力的。「あのスピードの中でドリブルも上手いし、裏の抜け出しも上手いし、ゴールも決めるし、本当に憧れですね」と語るキリアン・ムバッペ(PSG)を敬愛するストライカーが、本格的に覚醒する時は近い。

 

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。Jリーグ中継担当プロディーサーを経て、『デイリーサッカーニュース Foot!』を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。ゲキサカでコラム、『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』を連載中。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

 

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