プロ多数輩出の興国高校サッカー部、「J2狙い」の理由と背景
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高校選手権に初出場した興国高校は、古橋亨梧(写真)ら多くのJリーガーを輩出(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 

「選手権」という夢舞台が終わり、高校サッカー界は、また新たなサイクルに入った。1、2年生は、春を待たずに都道府県や地域の新人戦に臨んでいる。進学先のチームの動向を気にしていた中学3年生は、春を待って高校サッカー界に飛び込む。一方、Jクラブ入りする選手たちは、卒業前から進路先で活動を始めている。今年、高校からJリーグへ進む選手は、26人(J1が11人、J2が10人、J3が5人)。その中に含めたが、U-17ワールドカップで活躍した桐生第一高校のFW若月大和は、いきなりスイス1部のFWシオンへ期限付き移籍することが発表された。日本の若い選手の海外志向は、どんどん強くなっている。その影響もあり、日本の高校生選手の進路選びには変化が生まれている。特に、有力選手を長期保有できずに選手を育てて売りながらチーム強化を目指すJ2クラブと、キャリアアップのために出場機会を重視するようになった高卒選手の相性は強まっている。

 

興国・内野監督「僕らはJ2狙い」

 

 全国高校選手権に初出場した興国高校(大阪)は、J2クラブを進路に推奨している。内野智章監督は、J1クラブに強く望まれたり、本人が希望したりする場合はJ1も当然候補になると断った上で「僕らは、J2狙いなんですよ、プロって。選手の将来を考えて試合に出ることを優先したら、J1よりJ2の方が良い。そこまで突き抜けて上手くなくても、強みになる特長があれば、J2クラブは、魅力を感じてくれます。だから、最初からJ2クラブ向けに発信している部分もあります」と話した。

 

 興国高校は、毎年のようにJリーガーを輩出しており、育成力に定評がある。現在の3年生も右DF高安孝幸と主将のMF田路耀介が2020年シーズンから金沢に加入する。内野監督がJ2を推奨するようになった背景には、19年に日本代表に初選出されたOB、古橋亨梧(興国高→中央大→岐阜→神戸)の成長過程がある。

 

考え直すきっかけになった、古橋亨梧の活躍

 

 興国からは、古橋と同期で2人、1学年下からも2人が高卒でプロ入りを果たした。当時の期待値は、4人とも古橋を上回るものだったという。しかし、いきなりブレイクする高卒Jリーガーは、少ない。

 

「今では、2学年で5番目くらいの選手だった古橋が一番成功しています。ほかの選手は、なかなか出場機会を得られずに苦しみました。スーパーだと思っていた選手が3年程度でプロ生活を辞めてしまうような事例が出てきて、おかしいなと思ったのが、最初のきっかけです。その後、古橋が岐阜(J2)でブレイクしたときに『高卒プロはダメ』なのではなく、21歳くらいまでは、公式戦をプレーする経験がすごく大事なのだろうと感じました。また、古橋が神戸(J1)でも活躍したので、確信に変わりました。結局、試合に出ることが大事。何人もの選手をプロに送り込んで分かったことです」(内野監督)

 

移籍活発化以前、J2のスカウトは嘆いていた

 

 内野監督が考え方を改めるのと同時に、時代背景も変わってきた。古い話になるが、Jリーグは、契約満了後にも移籍金が発生する国内独自のルールを2009年まで採用していたため、国内の移籍が少なく、高卒選手は契約条件や活動環境に直結するクラブの規模を優先した。あるJ2クラブのスカウト担当者(当時)は、熱心に口説いていた選手を、たった1日だけ見に来たJ1クラブに持って行かれ「興味を持ってもらっても『でもJ2ですよね』と言われてしまうんだよ」と嘆いていた。「J1と競争になったら勝てない」というスカウトの話は、ほかでもよく聞いた。

 

 しかし、海外へ移籍する選手の事例が増えるにつれて、Jリーグの契約形態も見直され、移籍は活性化。13年には、「育成型期限付き移籍」(所属チームより下位のリーグへ移籍する場合に限り、18~23歳の選手は登録期間外でも移籍が可能になる)が導入されるなど、若い選手はより移籍が容易になっている。これにより、高卒で選ぶチームは、終着点ではなく出発点になりつつある。今では、J1のビッグクラブからオファーが来ても、より早く実戦を経験することを目指してJ2クラブと契約する選手も、珍しくない。

 

進む若手の出場機会創出、20年シーズンからはJ2、J3で奨励金も

 

 また、移籍の活発化と同時に、若手の出場機会創出の流れも強まっている。16年にJ1のFC東京、G大阪、C大阪がJ3を戦うU-23チームを編成。育成組織の選手や高卒選手に、より早く公式戦の出場機会を提供するようになったが、かつては、思い切って起用するのは外国人監督くらいだと言われることも多いくらいに、高卒Jリーガーの出場機会は少なかった。2年、3年と実戦経験の少ない生活をするうちに、頑張り方を見失うケースも多く、高卒Jリーガーの有望株が、成長できない、評価が上がらないと苦しんでいるうちに、大学を経た他選手が評価を上げる例も多く生まれた。

 

 その中で、プロ入り直後の世代となるU-19日本代表が、2008年から4大会連続でアジア予選を勝ち抜けなくなったこともあり、若手の出場機会創出は、日本の大きな課題として捉えられるようになり、現在に至るまで様々な策が施されている。17年にはルヴァンカップで21歳以下の日本国籍選手を1人以上先発起用する義務がルールに加えられるなど、若手選手の出場機会は改善傾向にある。2020年シーズンは、J2とJ3で若手積極起用にJリーグから奨励金が支払われる制度も導入される。

 

時代の流れに沿う、興国高のJ2狙い

 

 移籍の活発化により、J2クラブはJ1クラブからの引き抜きを多く受けることになった。新たな戦力となり、成長により移籍金を生み出すような選手が必要だ。一方、出場と移籍のハードルが緩和されている高卒ルーキーは、現状の力量を考えながら、将来の移籍も見越し、出場機会を重視してチームを選ぶことが可能になった。両者の思惑は、合致するところが多くなっている。取材現場で「興国からプロに行く選手って、どうせまたJ2でしょ?」という声も聞いたのだが、興国高校のJ2狙いは、時代の流れに沿っている。J1かJ2かといった大きな区切りですべてを説明できるわけではないが、興味深い進路選択の戦略だ。

 

 

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