その指導は子どもたちのためになっている?ジュニア年代のクラブ・指導者のあるべき姿
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現在、4種の競技人口は少しずつ減っている。地方からどんどん少子化の波が押し寄せるなか、サッカークラブに限らず、この問題はすべてのスポーツクラブを運営・協力しているコーチや保護者が向き合わなければいけない。

 

私たち「今」を支えるクラブ指導者は一体何ができるのか?

 

「ジュニアクラブはどう地域と関わるべきか」を軸に、これからのジュニアサッカーの在り方について考えていきたいと思う。そこで昨年に引き続き、3名のサッカー指導者に現場の立場から率直な意見を語っていただいた。第四弾のテーマは「選手によって試合経験をどう作るか」「コーチの思考をどうアップデートするか」について話してもらった。

 

【司会】編集長/高橋大地
【指導者】FC市川GUNNERS(ガナーズ)=南里雅也  大豆戸FC=末本亮太  FC大泉学園=小嶋快
【担当ライター】木之下潤


 

選手に応じて試合経験をどう作るか?

 

高橋 最近大会を見て思ったのは、ピッチでは選手が一生懸命いいサッカーをしようとしているんだけど、ベンチを見るとコーチがすごく怒っているんです。県で決勝トーナメントくらいに進んでいるチームなのですが、あまりいい指導者のように感じませんでした。ここ数年はある程度サッカーを知っているコーチが増えたと思うんですが、コーチがやりたいことが先行しすぎている印象があります。

 

南里 そういう意味では、私はすごくチャレンジの一年でした。新設のトップリーグで10チーム中下位4チームが一部に落ちる状況でした。うちはチームとしての適正人数16名で戦っています。8人制では、同じポジションに二人がいて適正な競争を起こすようにしています。なるべく毎回、全員を起用し、最終的にはリーグ7位でした。でも、勝敗以上の価値がクラブとしてあったと思っています。前期は選手によってレベルにバラつきがあり、すごく難しい試合が多かった。ただ、後期になったら前期に全員が出場したので公式戦を通じてチームの共通理解を深めて結果も試合内容も向上したと思います。

 

 時間差こそあれ、一人ひとりが一歩ずつうまくなっていくことが大事です。

 

 リーグレベルが下がったら辞めるというわけではなく、下のレベルのリーグでもきちんとプレーできることのほうがクラブの価値も上がると思うんです。私は後悔していないし、トップリーグだからこそ全員で戦うことをやり通しました。チームワークが上がり、成功体験を選手が感じているので、みんな練習に意欲的です。例えば、柏レイソルさんなどのJクラブは誰が出ても変わらないレベルで戦えます。私たちのようなクラブは力の差は多少ありますが、そこは勇気を持ってチャレンジしないと、と思います。ある選手は一試合のために遠くから来てアップだけして帰っている現実もあるわけです。そういう経験をさせるのも一つかもしれませんが、特にジュニア年代は全員を一定時間は出場させるようにコーチがやっていかないといけません。

 

 私は一年間それを通して、確実にチームも個人も力が上がっているなと感じています。だかこそ仕組みを作ることが大切で、U-11プレミアリーグなどでは3ピリオド制を導入しています。年齢が下がるほど、全員をプレーさせてあげないといけない。これがジュニアユースやユースに上がっていけば、いわゆる実力主義で徐々に競争すべきだと思いますが、ジュニア年代では育成に主眼を置くべき。もちろんクラブ運営をされる指導者の方が「結果が出なければ人数が減るんじゃないか」という不安があるのもわかります。でも、うちは全員出場によって逆に問い合わせが増えています。あのクラブに入ればきちんとしたトレーニングが安定してできて、かつ試合も出場して競技性も求められると。そこは目指してよかったなと感じています。本当に全員がすごく伸びたなという実感があります。

 

末本 横浜市では、前期のリーグ戦の結果によって後期はレベル別リーグに分かれて戦うのですが、年数を重ねて私たちなりの創意工夫をしてきました。初年度は、登録選手を均等に出場させていたのですが、中途半端な内容、結果になってしまい、ボトムアップにもプルアップにもつながらなかったと考えています。そういったことから改善し、相手に応じて選手を出場させること、AチームとBチーム二つのチーム編成でリーグに参加し、選手に合ったレベルでの試合機会を設けるようにしたことで、どちらの選手も成長し、結果にもつながるようになりました。快適ゾーンではなく、少しの不安ゾーンでプレーすることでそこを打ち破って成長していく姿が見えました。

 

南里 トップリーグをみんなに経験させてあげたいという気持ちがあり、公式戦でも多くの選手を出場させました。トップレベルを感じさせ、最も真剣な試合を経験させることがその後大きな差になるとの思いで、私たちはチャレンジしました。もともとクラブとしては「トレーニングマッチは全員均等に」、そして公式戦は指導者の裁量に任されていました。一般的に言っても、ジュニアユースは公式戦に出場できなくてもトレーニングマッチで試合を経験させたりしていますからね。

 

末本 私たちのクラブでは、ジュニアユースには希望者が全員進級できるようにしていますが、セカンドチームの選手も希望してくれます。ジュニア年代で、レベルに応じた機会があり、「そこで成長してきた」、そして「これからも期待できる」と信じてくれているからだと思っています。試合出場時間でいうと、セカンドの選手のほうが長いこともあります。私はチームの力が出るのは、セカンドチームだと考えているので進級を希望してくれるのは本当に嬉しいことですし、一つの指標にもなっています。

 

南里 うちもほとんどの選手が昇格を希望しています。今年もセレクションをしたのですが、外部からも良い選手がきているので内部昇格との競争も入ってきました。その中でも、ジュニアからの積み上げがしっかりしてきているので、クラブとして嬉しい悩みです。

 

小嶋 今年、6年生は18人いるのですが、15名はクラブチームでプレーすることを選びました。最近はBチームの選手もクラブチームを考える選手が増えてきている傾向にあります。

 

末本 クラブとして、Bチームがきちんと活動しているからですね。育成年代に目を向けると、そういうチームは少ないですからね。

 

南里 パワハラや、指導の知識不足も含め、まだ「夏のキャンプ、合宿で素走りを数百本走った」とか言っている指導者もいますからね。自分たちの経験則で指導したり、知識不足によってトレーニングの時間を持て余してしまったりして感覚的に指導しているのかなと思います。走るだけなんて単に指導者の怠慢ですから。そこに狙いがある、サッカーに必要なものだと確信的な理由があるならいいですが、過去に「自分がやったから」「自分たちは強くなったから」は気のせいです。そういうものは「がんばったとは違うよ。サッカーとは違うよ」と言いたいです。きっと本人はパワハラだとも思っていません。

 

 「合宿に行ったら、ヘトヘトになるまでやるのがサッカーだ」みたいな。

 

 「いやいや合宿でうまくなるのがサッカーだろ」と思います。あと、最近は「サッカー以外のことも教えます」みたいなクラブもありますけど、私はそこに少し疑問を持っています。「何を勉強して、それを言っているのかな?」と。よくよく聞いてみると、結局「挨拶は大事」とか、「忘れ物をしたらグラウンドを何周させる」とか耳にして、「それが何に役立つの?」と思います。もちろん挨拶や礼儀も大事ですが、私たちはあくまでサッカーコーチですから、そこに専門性をもって指導しているわけです。「サッカー以外を教えます」という方々には、「どんなことを専門的に学んで教えているんですか?」と問いたいです。そういうことに気づいていないクラブは人数が減っています。それは指導者も含めて、です。

 

木之下 選手に対して「どのようにサッカー的なアプローチをすればいいかわからない」から体罰やパワハラが起こると思うんです。それそのものがサッカーの知識がない証拠です。そして、これまでその指導者が評価されていた背景に何があったのかを考えないといけません。

 

 例えば、イングランドではパワハラや体罰があったらFAからの助成金が降りないような仕組みになっていたり、その逆でいい環境を作ったらきちんと評価されて「ボール10個を提供します」みたいな環境になっています。そこはクラブの強い弱いは関係ない。

 

 コーチ同士、クラブと協会、協会同士、責任転化ばかりしているからなかなか子どもが育つ環境が変わっていかない。それぞれのコーチが「自分が一番」という考え方を捨てて、相手の目線に立つことが大事なんじゃないかなと取材側、指導側の両面に立っていて思います。

 

コーチの思考をどうアップデートするか?

 

高橋 最近は「厳しくしてほしい」という保護者もいました。そのあたりはどうですか?

 

小嶋 なかにはいますよ。「ビシビシやってください」と。

 

南里 さすがに昔のように「殴っていい」はないですが、「スポーツの厳しさを教えてください」という感覚の保護者はたくさんいます。サッカーは時間内でボールを奪い合うスポーツという特徴があるので、トレーニングの中で言葉は選びながらも激しさは求めていきます。でも、トレーニングが終わったらコーチと選手との関係もそれで終わりです。やはりオンとオフの切り替えは大事です。そして、互いの休息も合わせて大事です。

 

 うちは、基本は90分以内しかトレーニングしないですし、長くやり過ぎないので毎回選手たちはフレッシュな状態でサッカーに向き合っています。子どもは大人より集中力がありませんから、メリハリがないと続きません。その代わり「ここに来たら練習で100%を出そうね」とやっています。他のクラブの様子を見ていると、「一生懸命やることの意味や視点がズレているな」と感じたりします。

 

末本 自身の経験則に頼った指導になってしまっているからではないかと思います。自分の受けた練習をそのまま選手にやってしまう。このことについてはOBや教え子がコーチ、実は危険ですからね。逆に知識不足の指導者は、とにかく長い時間をやってあれもこれもと詰めたがります。休憩時間もやたらと長く、メリハリがなくて、それが結果的に試合にも出てしまいます。

 

 ただ、上のカテゴリーに行くと長時間の練習は必須なので、それに耐えられるように「たまにそんな環境を作る」ということも意識しています。正解はないですから。子どもはどんな指導者、どんな環境でこれからサッカーをやるかわからないのですからね。幅は持たせてあげたいです。

 

高橋 最後に、みなさんが理想とするジュニア年代のクラブの在り方についてひとことずつお願いします。

 

小嶋 人口が減っていると言っていて「どうやって選手を増やそうか」とみんな考えているところだと思いますが、増やし方は表面的なことじゃなく、指導者のパーソナリティの部分なのかなと感じています。ちゃんとした指導者がいるところは、ちゃんとした活動ができていて、そこに選手が集まっています。情熱はもちろん大事ですが、情熱の向け方を誤ってしまうといまの時代には合っていません。何事もすごく変化が早い時代です。良くも悪くも、例えばSNSでパワハラ動画が流れると、みんなが一斉にそちらに動きます。そういうことを見ていても「時代の流れをある程度は読み取り、その中でクラブの軸はブラさずに差別化を図りながら」というのが必要なのかなと思っています。

 

末本 経験のある指導者がいて、のびのびと楽しみながら成長していく子どもたち、そこに安心して任せられる保護者、そんな環境が整ったクラブが増えていくことを切に願っています。当然、クラブによって色があり、それに応じて子どもたちが選べる環境になるといいですよね。幼児教育の無償化が始まってから、キッズクラスへの問い合わせが多く、すでに定員となっています。地域のサッカークラブに求めているものがあるわけなので、私はすばらしいことだと考えています。

 

 また、私は地域に住む人がチームにたずさわっているのに地域と分断されているように感じているので、スポーツ、教育機関、行政が連携して地域創生ではないですが、サッカークラブの可能性をもって広げられるように考えています。そういった点で関わる指導者には「サッカーだけでない視点」も必要になってくると思っています。

 

小嶋 いいものにはお金を出しますからね。うちも昨年からスクールを始めましたが、月謝が「安い」と言われました。いまは所属クラブに加えてスクールに通っている子も多いです。

 

南里 私たちのクラブにはハードがあります。だから、持続可能なクラブとして自分たちのクラブの哲学やメソッドを最大限活用できています。あそこのクラブはこういう指導者がいて、こういうサッカーをするというオリジナルのモデルケースになりたいと考えています。時代は多様化しているので、常にメソッドはブラッシュアップをしながら文化を作っていきたいです。

 

 あと、リーグ戦環境、仕組みやルールで子どもたちを守れるような環境を整備していくことが、試合経験、パワハラ、体罰などの問題を少しずつ少なくしていくために必要なことかなと思います。日本サッカーの歴史はまだ30年くらいですから、100年構想だと考えると、いまはプレー面だけでなく環境面も含めてしっかりとチャレンジを繰り返していくフェーズです。そういう意欲はみんな持っていると思うので、私もトライ&エラーを重ねながらチャレンジしていきたいです。

 

木之下 私は現場コーチとそれを取材するライターと二足のわらじを履いていので、「現場のコーチがどうしたらいいのか」ということに対して「自分は何ができるのか」で活動していくしかないのかなと思っています。いくら最新の情報があったとしても、現状日本でそれを実践できるコーチが圧倒的に少ないわけですから。日本のコーチの身の丈にあった一貫性があり、さらに持続可能なことは何かという発想をベースにしないと、コーチがスペイン流だ、ドイツ流だとスタンスをコロコロ変えていたら混乱するのは選手ですから。

 

 街クラブのコンサルをしてわかったのは、1年半もかけて現場のコーチが変わったのはネガティブな言葉かけから認める褒めるのポジティブな言葉掛けに変わったくらいなんですよ。

 

 大人は1年半かけてそれだけしか変われないんです。正直、サッカー指導に必要な知識が変わったかというと、その部分については始めた頃の私の想像の2割程度です。人が変わっていくのはそれだけ時間がかかるものだと考えると、いま現場にいるコーチがコツコツと目の前の変えられるものに向き合うしか日本のサッカー文化はいいものになっていかない。

 

 この場に集まっている私たちがやっているものに対して「どう賛同者を増やしていくか」、それしか変えていく方法はないと思っています。だから、メディアでダメなのはダメと言わなければいけないですし、最先端の情報も発信するし、偏ってはいけない。確かに、メディアとしては最先端の情報、もの珍しい情報のほうがお金になるけど、私は日本のコーチにあった身の丈の情報を発信していくことを今後も重視していこうと思います。

 

 そして、きちんと伝えたいのは、いまジュニアのコーチの指導力が確実に成長していること。そこは私が自信を持ってみなさんに言いたいことです。だから、現場のコーチはもっと自信を持ってチャレンジしてもらいたいなと思います。

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