西川潤、桐光10番を背負った3年間。 「新たな答えを出していきたい」
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「僕のせいで負けたと思っています」

 

 気丈に振る舞っていたが、溢れる涙をこらえきれなかった。

 

 18歳の背中を見て、どれだけのプレッシャーがのしかかっていたのか、どれだけこの高校サッカーに懸けてきていたのかが手に取るようにわかった。

 

 第98回全国高校サッカー選手権大会神奈川県予選決勝。

 

 今年U-17W杯とU-20W杯の2つのW杯を経験した桐光学園高校FW西川潤(セレッソ大阪内定)は、1年生から背負い続けるエースナンバー10のユニホームを纏って、ニッパツ三ツ沢球技場のピッチに立った。

 

 相手は県内のライバル・日大藤沢高校。今年のインターハイ予選準決勝でも激突し、延長戦の末に振り切った難敵だった。

 

ミックスゾーンで溢れ出てきた涙。

 

 前半は決定機を多く作った。しかし、西川の放つシュートはことごとく相手GKの手の中に収まっていく。この日の2年生GK濱中英太郎(日大藤沢)はまさに当たっていた。

 

 チャンスを決めきれない桐光学園に対し、日大藤沢が先手を取る。後半立ち上がりの9分、鋭いサイド突破からMF浅野葵が均衡を破るシュートを突き刺した。

 

 1点のビハインドに浮き足立つ桐光学園。西川も前線に残って、仲間がボールを運んできてくれるのを待った。しかし、日大藤沢の集中力を保った守備をこじ開けることができず、0−1のままタイムアップを迎えた。

 

 敗戦を告げるホイッスルが鳴り響いた瞬間、西川はその場に立ち尽くし、大きく息を吐いた。試合後の挨拶、そして表彰式と彼の目には涙はなかった。むしろ涙を見せないように必死で堪えていた。試合後のミックスゾーンでも、複数のメディアに取り囲まれる中、言葉少なではあったが、両手を後ろで組みながら気丈に答えていた。

 

 1つの質問が終わり、少しの沈黙。また1つの質問が終わり、少しの沈黙。この繰り返しを横で見守ったあと、こう質問をぶつけてみた。

「タイムアップの瞬間、いろんな感情が渦巻く中で、真っ先に頭に浮かんだこと、思ったことは何ですか。西川選手の中で背負うものは大きかったという思いはありますか」

 

 しばらくの沈黙のあと、少しうつむいた。すると、噛み締めていた唇が震え出し、ずっと我慢していた涙が溢れてきた。片手で何度も涙を覆い、1分間近くの沈黙を破ってこう声を絞り出した。

 

「自分が決めなきゃいけないシーンで、決めきれずに……。いろんな思いがあった中で……今日チームを勝たせられなかった。自分の責務を果たせなかったことが悔しいです」

 

桐光学園の10番を背負って。

 

 もちろん敗戦は彼だけの責任ではない。だが、西川は高校入学前の練習試合から10番を託され、その背番号と共に高校3年間を歩んできた。

 

 それに彼が背負っていたのは、ただの10番ではない。選手権準優勝など輝かしい成績を残した中村俊輔という日本を代表するレフティーから引き継がれる番号である。中村のその後の偉大なキャリアによって「桐光学園の10番」は全国的に見ても特別なものとなった。

 

「偉大な方がつけてきた番号でしたし、入学前からつけさせていただいて、気にしないと思っていても、周りにはそう(桐光の10番と)見られることが多い。見られている中でどういうプレーをするかを心がけていました。自分なりの10番の役目というか、どういうプレーをすべきなのか、どういう振る舞いをすべきなのかをずっと考えながら、時には周りから言われながら過ごしてきました」

 

 周囲の期待と、自分の中で感じる責任と自覚。理想と現実の違いからくる葛藤。このジレンマに彼は3年間戦い続けた。

 

覚悟を決めて選んだ進学。

 

 横浜F・マリノスジュニアユースでも10番を背負っていた西川がユース昇格を断って3つ上の兄がいた桐光学園に進学したのは、もはや多くのところで語られている。

 

「『なぜユースに上がらないんだ』という厳しい声もありました。でも、これは自分の人生なんで、周りに何と言われようが、批判やいろんな意見はあると思いますが、自分のための決断をしました。失敗したら『それ見たことか』と言われると思うので、それが逆にバイタリティーになっているというか、『なにくそ』と思えてやれている。そこはモチベーションになっています」

 

 覚悟はできていた。自分の背中にのし掛かるプレッシャーは望んでいたものでもあった。だからこそ、鈴木監督が自分に10番を与えてくれたことに喜びと責任を感じることができた。

 

「ここに来るまで、メンタル面において自分は相当、甘かった。技術云々よりも、その技術を発揮するためには、どんなときも自分を表現できる、さらけ出せる力が必要だった。なりふり構わずゴールを目指す、苦しいときにこそ力を発揮する。恥や外聞は関係なく、かっこ悪くても良いから泥臭くやって結果を出す。これが大事だと思えるようになったことが、桐光学園にきて、1番の成長だと思います」

 

 だが、高校最後の大舞台に、チームを連れて行くことができなかった。悔しくて、情けなかった。

 

アジアMVPも、選手権では初戦敗退。

 

 話は試合後のミックスゾーンに戻る。

 

「試合の中で正直、焦りはありました。0−1にされて、刻々と時間が過ぎていった。『このまま終わってしまうのか』と自分の中で焦りもありましたし、チームのみんなも焦っていたと思う。それをいかに冷静に保たせることができるかというのもキャプテンの仕事だったのですが、そういう力だったり、自分の想いが全然足りなかったと思います。自分も焦ってしまった」

 

 どの質問に対しても、自分の不甲斐なさを口にしていた。だが、高校3年間を振り返ると、常にこの思いを噛み締め、その度に成長して結果を出していく彼の姿を見てきた。

 

 1年のときは全国大会と縁がなかったが、2年生ではインターハイと選手権に出場。AFC U-16選手権でも日本代表の10番を背負い、優勝に導く決勝ゴールを決め、アジアMVPにも輝いた。

 

 だが、インターハイでは決勝戦で山梨学院高校に敗れ、「こういう試合で勝ちに持っていくことが10番の仕事。それができないのは自分がまだまだ足りないことが多すぎるということ」と涙を流すと、アジアMVPという大きな看板を背負って出場した選手権では、初戦で大津高校に0−5の大敗を喫した。

 

10番・主将として制した夏。

 

 最高学年を迎えた今季。飛び級で出場したU-20W杯では、本調子とは程遠い出来でチームに貢献できなかった。「もっと成長しないといけない」と悔しさを力に変えようとベクトルを自分に向け続けた。それが、同校初の全国制覇となったインターハイ優勝につながった。

 

 先日のU-17W杯では2ゴールをマークするも、ラウンド16のメキシコ戦に惜敗した。だからこそ、帰国後に臨んだ選手権予選には相当の思いがあった。しかし、有終の美を飾ることができなかった。

 

 ただ、これもまた彼にとって、より高く飛ぶための原動力となるだろう。毎回味わう悔しさこそが「足りないものを補い続ける」という、彼が追い求める成長の源であった。

 

「高校3年間、桐光(学園)だけではなく、年代別日本代表の活動や、(内定している)セレッソ大阪の活動にも行かせてもらって、自信になった部分もあるし、成長できた部分があった。それも桐光に来て、鈴木監督を始め、周りのチームメイトが、自分が何回も不在となる中でいろんなサポートをしてくださったからこそ。本当に感謝しかありません」

 

 最後にこう口にする彼を見て、素直に思ったことがある。西川は新たな「桐光学園の10番」を示したのではないだろうか。同時に中村俊輔のようにこれからのキャリアで、より大きくして成長していかなくてはいけない宿命も担っている。

 

中村俊輔を超える存在として。

 

 彼の10番はこれで終わったわけではない。将来的にはクラブ、そして日本代表で10番を背負うべき存在の1人だろう。来年からはプロとして新たなスタートを切るが、彼の背中に深く刻まれた10番は、輝きが増せば増すほど、背中から浮き上がってくるものだと思っている。

 

「これからしっかりと自分に向き合って、新たな答えを出していきたい。整理して、この思いを次につなげていきたいと思います」

 

 悔しさは将来、輝きを浮かび上がらせるための大きなエネルギーとなる。重圧と責任、葛藤が大きければ大きいほど、乗り越えることができる人間とできない人間の差がはっきりと出る。西川にはこれから先、もっともっと悔しい経験を積んでほしい。中村俊輔を超える存在として――。

 

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