柏レイソルとの連携で躍進、日体大柏は千葉の2強を下して歴史を変えた
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「市立船橋、流経大柏を倒すためにタッグを組んだというのがありますから。全国区のチームを倒すためには、普通のことをやっていたらダメだと思っていた」

 

 インターハイサッカー競技千葉県予選を、旧・柏日体高校時代以来、33年ぶりに制した日本体育大学柏高校(日体大柏)の片野慶輝総監督は、「感慨深いものがありましたね」と頷いたあとに冒頭の言葉を続けた。

 

全国トップレベルの2校を倒した日体大柏が話題となっている

 

 決勝で対戦した相手は、ここ2年連続で全国高校選手権のファイナリストとなっている流通経済大学付属柏高校(流経大柏)。彼らの全国随一とも言われるハイプレスを前に、普段どおりのサッカーができるチームは稀だ。日体大柏も以前ならば、相手のハイプレッシャーの前に落ち着いて攻撃することができず「蹴るしかなかった」(片野総監督)という。

 

 それでも、今回は「流経大柏のハイプレッシャーでもいなしていたし、1人くらいかわせるようになっている。その辺は成長していると感じました」と片野総監督。チームは前半12分までに2点を失い、追いついた後の後半32分に再び勝ち越された。だが、ときにSBや中盤の選手が相手のプレッシャーをかわしながら落ち着いて攻めた日体大柏は、後半アディショナルタイムのゴールで追いつき、延長後半ラストプレーの決勝点によって4-3で逆転勝ち。地元のJリーグクラブ、柏レイソルと相互支援契約を結んでから5年目で千葉制覇を果たした。

 

 千葉県の高校サッカーは全国高校選手権優勝5回、インターハイ9回の優勝を誇る市立船橋高校と、前出の流経大柏が「2強」を形成している。両校ともに多数のJリーガーを輩出し、今年も年代別の日本代表候補選手が複数在籍。加えて、千葉県はいずれも全国優勝歴を持つ習志野、八千代など強豪校がひしめく全国有数の激戦区だ。その中で今回、日体大柏は、準決勝で市立船橋、決勝で流経大柏を連破して頂点に立った。

 

    日体大柏は2013年度の関東大会千葉県予選で優勝し、翌年も準優勝で関東大会に出場した。ただし、同大会は2強が参加しておらず、当時のインターハイ予選、高校選手権予選では、決勝を前に2強やその他の高校に敗れている。

 

 関東一帯、全国各地から有力選手が集まってくる2強相手に「普通にやっていても勝てない」。当時監督を務めていた片野総監督は、それを強く実感していた。迎えた2015年、日体大柏は学校サイドの協力もあって改革を本格スタートする。同年2月に柏レイソルと相互支援契約を締結。学校が柏レイソルU-18の選手を受け入れる代わりに、”柏のアカデミーの一つ”としてサッカー部を強化することになった。

 

 柏のアカデミーコーチが日体大柏に派遣されて指導。加えて、アスリートコースの1年生選手が専門体育の授業で柏アカデミーコーチから指導を受けたり、日体大柏の有力選手が柏U-18のトレーニングに参加するという試みがスタートした。

 

 ボールを持ったら相手に渡さない。これが柏アカデミー全体で共有されている哲学で、ポゼッション、ダイレクトパスによるプレーは非常に高度だ。すべてではないまでも、”レイソルメソッド”を学んだ選手たちは徐々に変化。柏との提携前後を知る片野総監督は、「レイソルの育成力はJユースの中でも高いものがある。コーチ陣の指導力は間違いない。ボールを置く位置や次のプレーを意識して動くとか、パストレーニングでも教え込んでいるなと思った」と口にする。

 

 柏と提携したことによって、柏U-15や柏のアライアンスアカデミーである柏レイソルA.A.野田、長生、流山、TOR’82から、柏U-18に昇格できなかった選手の入部が増加。すでに小中学生時代から”レイソルメソッド”を学んでいる彼らは、コーチ陣の求める要求に応え、チームのレベルを一段階引き上げた。

 

   だが、壁をすぐに乗り越えられたわけではない。千葉県の準決勝までは勝ち上がるものの、昨夏は市立船橋、一昨年は夏秋ともに流経大柏に敗れるなど、2強の壁を突破することができなかった。じつは過去のJクラブと高体連の提携による成功例は、個人の育成などわずかだ。16年に柏から派遣され、17年からは監督を務める、元日本代表MFの酒井直樹氏は「準決勝止まりだと、どこかに疑問が出てブレちゃってもおかしくない。でも、(日体大柏は)ブレずに任せてくれていた」と語り、片野総監督も「学校も今年人工芝を新しくしたり理解してくれていましたし、何とか恩返ししたい」と考えていた。

 

 今年4月の関東大会予選で初戦敗退を喫した日体大柏は、連日選手間ミーティングを行ない、守備面などの細部にこだわってきた。酒井監督も、レイソル流の良さを残しつつ、2強に”勝つための武器”として5バックの守備的戦術と高速カウンター、ロングスローも準備してインターハイ予選に挑戦。千葉県を勝ち抜くために意識、戦い方も変えながら成長してきたチームが、歴史を変えた。

 

 今年のインターハイ(7月26日スタート/沖縄県)はFW西川潤(桐光学園高校、セレッソ大阪内定)をはじめ、FW染野唯月(尚志高校、鹿島アントラーズ内定)、MF武田英寿(青森山田高校、浦和レッズ内定)といった逸材が参加する注目の大会になっている。その中で日体大柏は話題校として全国に臨む。流経大柏戦で大活躍した快足FW耕野祥護や、期待の2年生FW小林智輝がケガで欠場となったことは残念だが、CB伊藤夕真主将や流経大柏戦でいずれも2得点を挙げたFW長崎陸とMF佐藤大斗、司令塔のMF堤祐貴ら全員でその穴を埋める。

 

 酒井監督に2強に近づいた感覚について問うと、「まったくないです。むしろチャレンジャーだと思って上を目指さないと。千葉はレベルが高いので、確固たる自信も持っていないといけない」と返ってきた。そして、秋の高校選手権予選や今後、両校に再び勝つために、これまで以上に高いレベルのトレーニングを提供すること、アップデートすることの必要性を口にしていた。

 

 インターハイで勝ち上がり、市立船橋と流経大柏が何度も経験している全国準決勝や決勝の舞台を踏めば、大きな成長と自信をつかむことができる。簡単なノルマではないが、「市立船橋と流経大柏を倒したというプライドもある」(長崎)、「2強だけじゃない」(伊藤)、「優勝します」(堤)と思いを持つ選手たちは本気で挑戦して結果を残し、2強に少しでも近づくつもりだ。

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