エネルギーは、満ちている。それをどういう方向に生かしていくのかは、きっと今年のチームの大きな命題だが、いろいろな悩みや課題を吹っ飛ばすぐらいのパワーが、彼らには間違いなくある。
「ウチが勝つ時はエネルギーのある子たちが多いというか、そういうものの方向性が同じになった時に、初めてパワーが全体に生まれるのかなと思うので、だからこそトップチームは控えの子たちの想いを本当に汲んで、自分たちがサッカーを真剣にやるのは当たり前で、それ以外のところでもとにかく一番やらなきゃダメだと。学校生活のところも含めて、そこは口が酸っぱくなるくらいは伝えています」(実践学園高・内田尊久監督)。
いきなりの失点だった。関東大会東京都予選2回戦。実践学園高(東京)は前半8分に右サイドを切り裂かれ、駿台学園高に先制点を献上する。ただ、初戦の高島高戦も先に得点を奪われたものの、最後は3-2で逆転勝利。「1回戦で逆転できたことは大きかったと思います。先制されても取り返せるというのは自分の中でもあったので、そんなに焦り自体はなかったですね」とキャプテンのDF鈴木嘉人(3年)の言葉は、ピッチ上の誰もが感じていたようだ。
失点から5分後の13分。エースがスコアを振り出しに引き戻す。左サイドを抜け出したFW小嵐理翔(3年)は、「良い縦パスが入って、良いトラップができて、良いシュートが打てて、良いことが全部繋がったので(笑)、良かったなと思います」という良いことづくめの一撃でゴールを捕獲。あっという間に同点へ追い付いてみせる。
17分に躍動したのは8番のレフティ。右サイドでMF鈴木陸生(3年)からボールを受けたFW関根宏斗(3年)は、「コーチから『どんどんシュートを打っていけ』と言われていましたし、練習からカットインしてのニアは狙っていて、イメージ通りでした」というカットインシュートをニアサイドのゴールネットにグサリ。4分間で逆転してしまう。
こうなると、もう勢いは止まらない。39分には右サイドバックのDF冨井俊翔(2年)がオーバーラップからシュートを右ポストにぶつけると、「コースは甘かったですけど、良い感じにミートしたので入って良かったです」と小嵐がこぼれ球を豪快に叩き込んで3点目を記録する。
後半にもセットプレーからDF山城翔也(3年)と鈴木のセンターバックコンビがそれぞれ加点し、終わってみれば5-1の快勝。「リーグ戦と関東予選も全試合で失点しているので、守備を大事しているウチとしてはどうなのかなというところはあります。トータルで見たら最後は落ち着いたかなという感じはするんですけど、まだまだだなというところですね」と内田監督は渋い表情も、その攻撃力を存分に発揮して、準々決勝への進出権を手繰り寄せた。
今シーズンの実践学園は体制に変化があった。同校サッカー部で30年近く指揮を執ってきた深町公一・前監督が退任。後任として長年コーチを務めてきた内田尊久監督が就任した。
「僕は深町先生みたいにどっしりしているタイプではないので、それには良いところも悪いところもあるかなと。スタッフ間のやり取りは今まで以上にできているのかなという気はするんですけど、やはりチームを締めるところはまだまだ自分に足りないところで、そこをどうしていくかは今後の課題なのかなと自分自身では感じています」(内田監督)。印象的だったのはこの日の試合後。指揮官は試合のメンバー1人1人とハイタッチして、言葉を交わしていた。柔らかく包み込むような人間性が、この人の大きな武器であることは間違いない。
また、この日は声出し応援も解禁。ベンチ外の選手たちはピッチサイドから大声を張り上げ、グラウンドを駆け回る選手たちを鼓舞し続けた。「去年の東京の選手権決勝時は探り探りというか、久しぶりすぎて誰も応援を経験していない状況だったので、なかなかまとまりが出なかった部分もあったんですけど、今年は応援練習も早い段階でやってきて、少しずつ形になってきているのかなと思います」と話すのはコロナ禍以前も知る内田監督。一方で選手たちも、応援がもたらすパワーを強く実感していた。
「応援って難しい立場ですし、正直自分がピッチに立てていない中で、あれだけの応援をしてくれたというのは、自分たちも責任を持ってやらないといけないなと感じて、空いた時間で応援の練習もしてくれていたこともあって、それに応えないとなとは思っていたので、それが結果に繋がって良かったです」(鈴木)「応援している人たちには正直複雑な気持ちがあると思っていて、自分も出たいと思っている選手がいる中で、ああやって応援してくれているので、それに自分たちは応えるだけですし、試合が終わったら学校でもしっかりお礼を伝えて、部員全員で少しずつレベルアップしていって、最終的にはこの大会を優勝したいです」(小嵐)。グループの一体感も確実に醸成されているようだ。
今シーズンのチームはある“テーマ”を掲げている。内田監督はその内容をこう説明する。「今年のテーマをどうするかといった時に、私が提案したのは『応援したくなるチームになろう』と。今までは『応援されるチームになろう』と言ってきたんですけど、そこから一歩進んで、『ああ、このチームは見ていて本当に応援したくなるな』ということを、たとえば他のチームの関係者の方からも思ってもらえるようなチームになろうということをコンセプトに始めていて、そういうところで自分たちの言動を変えていこうと」。
「または応援団の人たちの仕草も、プレーする選手たち以上に見られるよというのは言ってきたので、そういうところで一体感は出してくれたかなとは思いますけど、もう少し指導が必要かなとも思います(笑)」
実践学園は基本的にレギュラーのほとんどが3年生で構成され、ベンチメンバーもすべて3年生という年もあるぐらいだが、昨年はその構図が崩れ、少なくない下級生が試合に出場していた。彼らは今年のチームの中核を担う存在ではあるものの、指揮官は昨年のチームへの想いをこう口にしている。
「今年の選手たちに去年の経験を生かしてほしいというのは確かにあるんですけど、やっぱり一番は3年生が強い想いを持って頑張らなくてはいけないと思っているので、逆に言うと去年に関しては不本意なところもあるなと、個人的には思っていたんです。なので、今年は逆に自分たちが試合を経験したことで、去年の3年生に対して『申し訳ない』と感じていた子たちが、1つ学年が上になったことで、より強い想いを持っているのかなという気はします」。
昨年度の選手権予選では、決勝で國學院久我山高に1-3で敗れ、全国切符はあと一歩でその手から零れ落ちた。あの日、涙を流した先輩たちの想いも背負って、2023年のチームが狙う目標は明確だ。「自分たちの目標は東京都4冠と、各カテゴリーでもリーグ戦で昇格することです」(鈴木)。
「応援されるチーム」から、「応援したくなるチーム」へ。今年の実践学園は変化を恐れず、前だけを向いて進み続ける1年に、足を踏み入れている。
(取材・文 土屋雅史)
森田記者が推薦するMF長田叶羽(ガンバ大阪ユース、3年) 7月22日に開幕する夏のクラブユースチーム日本一を懸けた戦い、第48回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会の注目プレーヤーを大特集!「クラセン注目の11傑」と題し、ユース年代を主に取材するライター各氏に紹介してもらいます。第1回は関西の高校生を中心に各カテゴリーを精力的に取材する森田将義記者による11名です。 森田記者「すでにトップチームに欠かせない戦力になりつつある広島ユースのMF中島洋太朗。6月の新潟戦でJ1デビューを果たした鹿島ユースのFW徳田誉。高3ながらもこの夏、海外に渡る熊本のFW道脇豊。今年はアカデミー出身の若い選手の飛躍が目を惹きますが、クラブユース選手権(U-18)には彼らに続く可能性を秘めた選手がまだまだ存在します。今回は夏の祭典を機にブレークを果たしてくれると期待し、見た試合でのインパクトが...
[4.14 プレミアリーグWEST第2節 静岡学園高 0-3 神戸U-18 時之栖スポーツセンター 時之栖Aグラウンド(人工芝)] 相手が素晴らしいチームなのはわかっている。間違いなく攻撃的に来るであろうことも、容易に想像が付く。だからこそ、自分たちも引くつもりなんて毛頭ない。アグレッシブに打ち合って、その上で勝ち切ってやる。クリムゾンレッドの若武者たちは、勇敢な決意をハッキリと携えていたのだ。 「本当にこのリーグは難しいリーグなので、正直勝ててホッとしています。それも『こういうサッカーをしようよ』ということを、自分たちがある程度しっかり出した上で結果も付いてきたので、そこが凄く喜ばしいかなと思っています」(神戸U-18・安部雄大監督)。 真っ向からぶつかって3発を叩き込み、2試合目で掴んだ初白星。14日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 WEST第2...
[10.12 国体少年男子1回戦 東京都 1-1(PK4-2)鹿児島県 OSAKO YUYA stadium] 東京都が“決勝戦”と位置づけていた一戦を突破した。対戦した鹿児島県はともにU-16日本代表のMF福島和毅(神村学園高1年)やFW大石脩斗(鹿児島城西高1年)を擁し、地元国体のために準備してきた注目チーム。この日は、800人の観衆が地元チームを後押ししていた。 だが、石川創人監督(東京農大一高)が「僕らは『ここが決勝戦だ』と言ってチームを作ってきた」という東京都が、強敵を上回る。技術力の高い選手の多い鹿児島県に対し、MF仲山獅恩(東京Vユース、1年)とMF鈴木楓(FC東京U-18、1年)中心にコミュニケーションを取って準備してきた守備で対抗。相手にバックパスを選択させたり、奪い取る回数を増やしていく。 鹿児島県の巧さの前に迫力のあるショートカウンターへ持ち込む回数は少な...
※2023年10月12日時点 【高体連】▽帝京DF梅木怜(→FC今治)MF横山夢樹(→FC今治) ▽市立船橋FW郡司璃来(→清水エスパルス) ▽桐光学園MF齋藤俊輔(→水戸ホーリーホック) ▽興國MF國武勇斗(→奈良クラブ)MF宮原勇太(→グールニクザブジェ) ▽飯塚DF藤井葉大(→ファジアーノ岡山) ▽大津MF碇明日麻(→水戸ホーリーホック) ▽宮崎日大DF松下衣舞希(→横浜FC) ▽神村学園FW西丸道人(→ベガルタ仙台) ▽鹿児島城西MF芹生海翔(→藤枝MYFC) 【Jクラブユース】▽北海道コンサドーレ札幌U-18FW出間思努(→北海道コンサドーレ札幌) ▽モンテディオ山形ユースGK上林大誠(→モンテディオ山形)DF千葉虎士(→モンテディオ山形)▽浦和レッドダイヤモンズユースMF早川隼平(→浦和レッドダイヤモンズ)▽ジェフユナイテッド千葉U-18DF谷田壮志朗(→ジェフユナイテッド...
10番・長のゴールを称えるチームメイトたち。昌平は尚志を相手に逆転負けを喫した。写真:河野正 村松コーチが監督代行として指揮 埼玉・昌平高校サッカー部を全国屈指の強豪へ育て上げた藤島崇之監督が10月3日付で退任し、新体制に移行して最初の公式戦、高円宮杯JFA U-18プレミアリーグEASTが7日に行なわれ、昌平は尚志(福島)に1-2で逆転負けし、3連敗を喫した。村松明人コーチが監督代行として指揮を執った。 今季プレミアリーグに昇格したチーム同士の対戦。4-2-3-1の昌平は前半6分あたりからペースを握り出し、ボランチの土谷飛雅とトップ下の長準喜(ともに3年)を経由してリズミカルな攻撃を展開。13分、MF大谷湊斗(2年)が右から鋭く切れ込んでからの最終パスが尚志DFに当たり、そのこぼれ球を長が蹴り込んで先制した。 前節まで6試合連続無失点の尚志の堅陣をこじ開けたことで、昌平...
■代表決定日一覧 ▽北海道・東北北海道予選:11月12日青森県予選:11月5日岩手県予選:11月5日宮城県予選:11月5日秋田県予選:10月21日山形県予選:10月21日福島県予選:11月5日 ▽関東茨城県予選:11月12日栃木県予選:11月11日群馬県予選:11月12日埼玉県予選:11月14日千葉県予選:11月11日東京都A予選:11月11日東京都B予選:11月11日神奈川県予選:11月12日山梨県予選:11月11日 ▽北信越・東海長野県予選:11月11日新潟県予選:11月12日富山県予選:11月11日石川県予選:11月5日福井県予選:11月5日静岡県予選:11月11日愛知県予選:11月11日岐阜県予選:11月11日三重県予選:11月11日 ▽関西滋賀県予選:11月11日京都府予選:11月12日大阪府予選:11月11日兵庫県予選:11月12日奈良県予選:11月12日和歌山県...
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高校サッカーの強豪、昌平高(埼玉)の藤島崇之監督が退任することが分かった。習志野高(千葉)、順天堂大出身の藤島監督は、07年に昌平の監督に就任。当時無名の私立校を短期間で3度のインターハイ3位、全国高校選手権8強、“高校年代最高峰のリーグ戦”プレミアリーグEAST昇格など、全国有数の強豪校へ成長させた。 判断力、技術力の質の高い選手たちが繰り出す攻撃的なサッカーが話題となり、また、12年に創設した育成組織、FC LAVIDAとの中高一貫6年指導によって、選手育成でも注目される高校に。現在、7年連続でJリーガーを輩出中で、U-22日本代表FW小見洋太(新潟)やU-17日本代表MF山口豪太(1年)ら多数の年代別日本代表選手も育てている。また、藤島監督は日本高校選抜やU-18日本代表のコーチも務めた。 昌平は近年、男子サッカー部の活躍に続く形で他の運動部も相次いで全国大会出場を果たしてい...
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鹿児島城西のMF芹生は、身体の使い方が上手く、パスセンスも高い司令塔だ。写真:松尾祐希 今年のチームは攻撃陣にタレントが揃う “半端ない”FW大迫勇也(神戸)を擁して選手権で準優勝を果たしてから15年。鹿児島城西が虎視眈々と復権の機会を狙っている。 鹿児島の高校サッカーと言えば――。2000年代の前半までMF遠藤保仁(磐田)やMF松井大輔(YS横浜)らを輩出した鹿児島実がその名を轟かせた。 近年は神村学園が躍進し、昨年度は福田師王(ボルシアMG)やMF大迫塁(C大阪)を擁してベスト4まで勝ち上がったのは記憶に新しい。インターハイは6年連続、冬の選手権も昨年度まで6年連続で出場しており、今季から2種年代最高峰のU-18プレミアリーグ高円宮杯に参戦するまでになっている。 一方で鹿児島城西は前述の通り、2008年度の選手権で日本一にあと一歩まで迫り、以降も神村学園と切磋琢磨し...
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