「僕のスタイルとしては基本的に先発がやり切るという形で、出し惜しみしている選手がいれば当然代えますし、ケガをしたら当然代えますし、疲れたら当然代えるしというスタンスなので、今日も疲れていたらいつでも代えようと思っていたんですけど、みんなやり切るみたいな雰囲気があったので、正直代えづらかったなと」(中村忠監督)。
FC東京U-18の選手たちは、浦和レッズユースを1-0で倒した勝利の瞬間、各々の位置で、各々がその喜びを噛み締める。まるで体力の“ゲージ”がゼロになってしまったかのように、その場で座り込む選手も少なくない。それもそのはず。タイムアップの笛をピッチで聞いた11人と、キックオフの笛をピッチで聞いた11人は、まったく同じ顔ぶれだったのだ。
指揮官も言及した「みんなやり切るみたいな雰囲気」は確かに漂っていた。若き青赤の逆襲。彼らが放つ個々のエネルギーは、1つの集合体として少しずつ強い意志を帯び始めている。
3月下旬。プレミアリーグの開幕を2週間後に控えたタイミングで、FC東京U-18を率いる中村忠監督が浮かない顔で、こう言葉を発する。「監督になって僕も3年目になりますけど、一番厳しいシーズンになるなというのが正直な所で、1人1人が本当に力を付けていかないと、トップには上がれないというのが結構はっきりしているかなと。ただ、チャンスがない訳じゃないので、それを本気で狙いに行くヤツがどれだけ出るかは、これから次第だなと。あとはゲームに対するエネルギー、サッカーに対するエネルギーですね。内から湧き出てくるものをサッカーに出せるようになってくるか、出せるようになる選手が何人出てくるか、でしょうね」。
『サッカーに対するエネルギー』。これは中村監督が、常に選手たちへ課している要求だ。ベーシックでありながら、あるいは一番差の付く部分。たとえば昨年の3年生たちは、誰もが想定できなかったコロナ渦という状況で、サッカーをする環境自体を奪われたことが、結果的に大きなエネルギーを生み出すことになった。自粛期間が明け、トレーニングが再開された時、指揮官も3年生の発するそれを強く感じ取ったという。
今年のチームも、決して力がない訳ではない。ただ、リーグ戦では開幕戦こそ競り勝ったものの、以降はなかなか白星を掴めないまま、社会情勢もあって試合の延期も相次ぐ状況に。勝利という成功体験を積み重ね切れずに、シビアなクラブユース選手権の関東予選に突入すると、勝てば代表権獲得という一戦で、ヴァンフォーレ甲府U-18にPK戦で敗れてしまう。
「やっぱり甲府に負けたあたりで、何となく『このままじゃダメだな』というのが、選手に少しずつ芽生えてきて、練習からしっかりやり始めたなという雰囲気は出てきましたね」。昨年末のクラブユース選手権は準優勝。悔し涙に暮れる先輩たちを目の当たりにしただけに、その想いも背負って日本一を獲りに行く気概は、誰もが持っていたに違いない。
負けた方は敗退という柏レイソルU-18とのシビアな“決戦”を3-1で制すと、続く三菱養和SCユース戦も3-0で快勝を収め、何とか全国大会への出場権を手にする。崖っぷちまで追い込まれたことで、ようやく彼らのエネルギーは、発火した。
約2か月ぶりの再開となった、浦和レッズユースとのプレミアリーグEAST第8節。決して華麗なサッカーを披露した訳ではない。2度に渡って訪れた決定的なピンチも、守護神の彼島優が水際で防ぐ。そして、ここに来て定位置を奪った宮下菖悟のクロスから、トップチームに帯同した経験を自分の中で力に変えつつあるストライカーの野澤零温が、完璧なヘディングをゴールネットへ叩き込む。1-0。冒頭でも記したように、スタメンの11人は1人も交代することなく、90分間を走り切り、戦い切り、勝ち点3を奪い取った。
「本来であればウチがボールを持ってとか、チャンスを作ってとか、守備の所でも察知してとか、いろいろなことをやらないといけないというのはあるんですけど、今持っている力を今日は出せたんじゃないかなと思います」(中村監督)。“今持っている力”の総量は、間違いなく増えつつある。
このレベルまで到達している選手であれば、誰でも一定以上の才能は有している。そこから先へと突き抜けられるか否かは、中村監督が大事にしている“エネルギー”をどこまで抱え、どこまで発せられるかに懸かってくることは、言うまでもない。
次節は首位を快走している青森山田高と、アウェイで対峙する。今の高校年代で、最も“エネルギー”を持っている最強の相手。最高のタイミングで、自分たちが試されるシチュエーションが到来した。「青森山田戦は凄く注目されているじゃないですか。自分もクラブチームとしてプライドがあるので、必ず勝ちたいなと思っています」と言い切ったのは野澤。あるいはサッカー選手としての意義を問われる90分間に、FC東京U-18は足を踏み入れる。
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