惜しまれながら引退した“ガラスの天才”がいる。
比嘉厚平氏は柏レイソルU-12時代から飛び抜けた才能を見せ、同年代の選手たちに一目置かれる存在だった。DF酒井宏樹、FW工藤壮人、FW指宿洋史らを輩出した1990年生まれの柏アカデミー黄金世代で常にトップを走り、年代別の日本代表でも常連メンバー。順調にプロへの道を歩んでいたが、トップチーム昇格の前年となる2008年に行われたカタールU-19国際親善トーナメントの中国戦で左膝前十字靱帯損傷、左膝半月板損傷、右膝半月板損傷の大怪我を負い、全治7か月と診断された。これが自身のキャリアに大きな影響を及ぼすことになる。
トップ昇格後の2シーズンは公式戦1試合の出場にとどまり、2011年に再起を懸けて当時JFLの秋田に期限付き移籍。リーグ戦30試合で7得点を記録し、12年にはレンタル移籍でモンテディオ山形に加入した。完全移籍となった翌13年から2年連続で2ゴールを挙げたが、15年以降は負傷の影響で公式戦出場はゼロ。16年12月31日に26歳の若さで現役引退を発表した。
このニュースを受け、当時は同年代の多くの選手たちが比嘉氏の引退を惜しんだ。MF齋藤学は自身のツイッター(@manabu0037)で「比嘉は、俺らの代で1番の選手。今も昔も変わらない。小5で会ってからずっと比嘉を追ってた」と少年時代を回想。比嘉氏と同じ柏U-18の黄金世代の1人である酒井(@hi04ro30ki)は「中学の時、FWだった自分のポジションが変わっていったのは同じFWに比嘉がいたから」と明かし、「常に自分達の代を引っ張って一歩前を歩んでくれるスターでした」と称賛の言葉を送った。
比嘉氏のプロ最後の所属チームとなった山形は今月8日、ホームで開催されるJ2第10節の京都戦で、クラブのJリーグ公式戦全ゴールをまとめたDVD/ブルーレイ作品『JリーグオフィシャルBlu-ray/DVD モンテディオ山形 ALL 1000GOALS J.LEAGUE 1999-2019』を一般販売する。比嘉氏がJリーグの舞台で挙げた得点は山形時代の計4ゴール。その得点シーンの中に、天才の片鱗を見ることができる。
Jリーグ初得点は2013年に行われたJ2第12節の富山戦(○3-1)だった。前半27分に後方からの浮いたパスに走り込むと、PA内中央で2人に挟まれながら胸トラップ。それと同時に相手と巧みに入れ替わり、右足のシュートを叩き込んだ。
J2第20節の松本戦(○4-1)では、前半8分に左サイドからのクロスにファーで反応。相手に当たって軌道が変わったボールに左足で合わせ、ゴール左に突き刺した。目の前には複数の相手がいたが、当たらないよう正確にコントロールしてネットを揺らしている。
同DVDで比嘉氏がプレーしたシーズンの副音声を担当したクラブOBの秋葉勝氏(現山形Jrユース村山コーチ)は、比嘉氏の2ゴール目に「うまい」とうなり、石川竜也氏(現山形Jrユース村山監督)も「さすが天才」と絶賛。2013年に2得点を記録した比嘉氏は、山形が昇格を果たした翌14年も要所で輝きを放ち、スタンドを沸かせた。
J2第13節の千葉戦(△1-1)で後半39分に途中出場すると、2分後に左サイド後方の石川氏から縦パスを受け、中央へ持ち出して右足を強振。レーザービームのようなロングシュートでゴール左上を撃ち抜き、チームを救う同点弾を奪った。
石川氏は当時のインパクトが強く残っていたようで、フィニッシュに至る前から「これ比嘉のスーパーゴールじゃん」とフライング。ゴールが決まると、秋葉氏と口を揃えて「すごかった」と感嘆し、山形のキャプテンを務めるDF山田拓巳も「天才です」と脱帽した。
そして比嘉氏の現役最後の得点は、J2第17節の栃木戦(○6-1)。右サイドの山田が中央へパスを出し、秋葉氏が受けてPA内につなぐ。ゴール前の比嘉氏が相手を背負って受け、右にボールが流れると、走り込んだ秋葉氏の折り返しから最後はこぼれ球を比嘉氏が右足で押し込んだ。
プロ8年間でJリーグ通算45試合出場4得点。そのポテンシャルに見合う成績を残せたわけではない。怪我との戦いが続き、引退時に本人が発表したコメントの通り「良いことよりも辛いことの方が多かった」プロ生活。だが、それを感じさせない明るいキャラクターでファンやチームメイトから愛され、出場すれば負傷を恐れることなく才能を解き放った。山形の背番号14、比嘉厚平。クラブ史に残るアタッカーの1人として、その名を刻んでいる。
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