森保ジャパンの一員としてボールを追うのは、MF中島翔哉(24)にとってはベネズエラ、キルギス両代表と対戦した昨年11月の国際親善試合以来、約4ヵ月ぶりとなる。
1月のアジアカップでは開催国のUAE(アラブ首長国連邦)でチームに合流したものの、メディカルチェックで右ふくらはぎの筋肉が損傷していることが判明。開幕直前で無念の離脱を強いられた。
コロンビア代表と対峙する22日のキリンチャレンジカップ2019初戦(日産スタジアム)へ向けて、18日から神奈川・横浜市内で行われている日本代表合宿。19日になって23人全員がそろった顔ぶれは、UAEの地で顔だけを合わせて別れたメンバーから実に13人が入れ替わっていた。
キャプテンのDF吉田麻也(サウサンプトン)もいなければ、中島のスタイルを「ドリブルお化け」と賞賛しながら「いますぐビッグクラブへ移籍するべき」と、背中を押してくれたDF長友佑都(ガラタサライ)もいない。何よりも中島自身が置かれた環境が、4ヵ月の間に大きく変わっていた。
ポルトガル1部のポルティモネンセSCから、カタール1部のアル・ドゥハイルSCへの完全移籍が電撃的に発表されたのが2月3日。日本円で約44億円に達した移籍金は、2001年夏に中田英寿がASローマからパルマに移籍した際の約32億円を超える、日本人歴代最高額となった。
もっとも、約1年半所属したポルティモネンセで演じた大活躍への対価となる、桁違いの金額に関して中島は興味を示さない。練習後の取材エリアで口にしたのは、森保ジャパンが船出した昨年9月から何度も繰り返してきた「楽しむ」というキーワードだった。
「お金のことは、僕はそこまで気にしていません。ただ、アル・ドゥハイルが僕のことをすごく欲しがってくれたことがすごく嬉しいですし、成長するために、そして楽しむために、自分にとって一番魅力的なクラブだったから移籍することを決めました」
サッカーシーンはヨーロッパを中心に回っている。J2の東京ヴェルディからJ1のFC東京をへて、ヨーロッパの第2集団に位置するポルトガルへ移籍したのが2017年8月。ステップアップの図式に沿えば、スペイン、イングランド、ドイツ、イタリア、フランスの5大リーグか、UEFAチャンピオンズリーグを戦える強豪チームが新天地の候補と期待されてきた。
実際、昨年末にはポルティモネンセのロジニー・サンパイオ会長が、プレミアリーグのウルヴァーハンプトン・ワンダラーズとの交渉が8割方決まったと地元のラジオ番組で明言している。フランスリーグの名門パリ・サンジェルマンや、同じポルトガルリーグで3強を形成するFCポルトが、中島に強い関心を抱いていると報じられたこともある。
だからこそ、中島が下した決断は少なからず驚きを伴っていた。中島自身、24歳という年齢に「世界的に見れば、それほど若くはない」と語ったことがある。中堅の域に差しかかりつつあるキャリアで、プレーの舞台を中東へ変えて新たなステージへ挑んでいる意義はどこにあるのか。
2022年の次回ワールドカップはカタールで開催される。サッカーを取り巻く環境が、国を挙げて変えられていく過程でプレーすることは、昨夏のロシア大会出場を逃した中島にとってもプラスになる。それでも、身長167cm、体重62kgの小柄なドリブラーは「そこは考えて選んだわけではないので」と、苦笑しながらこんな言葉を紡いだ。
「本当にいろいろなクラブが話をくれましたけど、そのなかでもアル・ドゥハイルはすごく自分に合っていた。実際に移籍が決まるまで2回ほど行きましたけど、サッカーの面もサッカー以外の面も魅力的で、より楽しくサッカーをするために成長できると思ったので。町の人々や食事も含めてすごく住みやすいし、いまは奥さんと2人で幸せに暮らしています。サッカーにもつながってくる点で、そこが一番大事かもしれないですね」
ここでもキーワードが飛び出した。漠然と聞こえる「楽しむ」に対して、中島が定めている定義を聞いたことがある。小学生時代は教室にボールをもち込んでは足元に置いていた、サッカーが大好きでたまらない小僧がそのまま大人になったような答えが返ってきた。
「ボールを多く触りながら、自分のなかから湧き出てくるイメージを自然とプレーで出せるときですかね。難しく考えなくても、自然といいプレーを勝手に自分の体がしてくれるときだと思います」
アル・ドゥハイルにはアジアカップ決勝で森保ジャパンが完敗を喫した、カタール代表の中核をなすDFバサム・アルラウィ、MFアシム・マディボ、そして大会得点王とMVPを獲得したFWアルモエズ・アリが所属。中島と同じ時期には、モロッコ代表として豊富な経験をもつDFメディ・ベナティアもセリエAの名門ユベントスから加入した。
そして、今年1月から指揮を執るポルトガル人のルイ・ファリア監督。クラブを率いるのは初めてだが、ポルトを皮切りにチェルシー、インテルミラノ、レアル・マドリード、マンチェスター・ユナイテッドでジョゼ・モウリーニョ監督を支えてきた名参謀のもとで、中島はリーグ戦とACLの6試合に出場。2ゴールをマークしている現状に、思わず言葉を弾ませている。
「アジアカップでも見せたように、カタールの選手は運動能力が高く、ボールを奪うことがすごく上手い。そういう点を僕も磨きたいし、攻撃に関しても個人でもチームでも行ける。監督からはポジショニングなどのアドバイスをよくもらっていますし、本当にいろいろなことを学んでいます」
森保ジャパンの船出とともに託された「10番」を、サッカーでは特別な番号と位置づけながら「それがすべてではないし、それに左右されちゃいけない」という言葉を添えることを忘れなかった。
日本代表で「10番」を7年半背負ってきたMF香川真司(30)が満を持して復帰し、初めて共演する今回のキリンチャレンジカップ2019でも、背番号にこだわらない姿勢は変わらない。
「番号はただの番号、というだけなので。試合でいいプレーをすることがサッカー選手としても、日本代表の選手としても一番大事なことだと思っています」
これまでも、そしてこれからも貫いていくのは自然体。アジアカップを境にチーム作りが第2段階に入った森保ジャパンの戦いは、中島が大事にしている信念――成長できるかどうかは見すえる志の高さにかかってくる――を、プレーを介して証明していく舞台にもなる。
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