1年間の下剋上で辿り着いたパリ五輪の舞台は、次なるステージへの確かな道しるべとなった。
U-23日本代表DF関根大輝(柏)が4日、パリ五輪が行われたフランスから帰国し、羽田空港で報道陣の取材に対応。大会を通じて得た手応えを「個人的には初戦から楽しめた。いろいろと課題は見つかったけど、すごくいい大会になったのかなと思う」と話しつつ、A代表入りへの熱い思いを口にした。
「今回の大会を通してA代表に入りたい思いが本当に強くなった。国を背負って戦うことの偉大さだったり、スペインに負けた後、本当に悔しかったので、次はA代表で晴らしたいなと思った。いろいろな課題は見つかったのでそういうところを克服して、A代表になるべく早く入れるように頑張っていきたい」(関根)
静岡学園高出身で拓殖大在学中の関根は、国際試合のない候補合宿を除けば、昨年6月の欧州遠征で初めて大岩ジャパンの正式活動に初招集された“遅咲き”のパリ世代。ところが昨年9月、主力不在で臨んだアジア大会で高い評価を勝ち取ると、今季はプロ入りを1年早めて加入した柏で即主力に定着し、一気にブレイクを果たした。
パリ世代の活動でも急速に序列を高め、3月の国内合宿、4月のU23アジア杯、6月のアメリカ遠征で一貫して存在感を発揮。いまや右SBの揺るがぬレギュラーとなり、初招集から1年余りでパリ五輪のピッチに立った。
今大会はターンオーバーで臨んだ第3戦イスラエル戦(◯1-0)を除く3試合にフル出場。静岡学園高などで磨き上げてきた技術に裏打ちされた攻撃センス、187cmの上背に支えられたフィジカルは世界でも大いに通用した。また唯一懸念されていた国際試合経験の少なさという課題も高いクオリティーで克服。敗れた準々決勝スペイン戦でさえ「自分が出た試合の中で一番手応えを掴めた試合」という言葉にふさわしいパフォーマンスを発揮していた。
もっともスペイン戦では「日本のサッカーは世界でも通用すると思ったし、個人のレベルとしてもやれる手応えは掴めた大会になった」という前向きな自信を得つつ、対戦相手からそれ以上の大きな刺激も受けたという。
そこで名前を挙げたのは右SBのDFマルク・プビル(アルメリア)。関根より1歳年下の弱冠21歳にしてラ・リーガ通算34試合、セグンダ(2部)通算29試合の出場経験を持つ190cmには、自らのスタイルも重ねながらプレーを見ていたという。
「スペインの右SBは自分と同じような体格、むしろデカいくらいで、全然自分より上手かった。自分よりもデカい選手でもっと上手い選手がいるんだなというのは、オリンピックに出ていなかったら経験できていなかった。あの選手はとにかくクオリティーが高かったので、試合中に逆サイドでもずっと感じていた。細かいトラップとかパス、特にダイレクトパスの質が高かったので、そういうところは吸収しないといけないと思う」
右サイドハーフやインサイドハーフと連係した攻撃参加では関根のほうが強みを出せており、「自分にはスペインの右SBにはない特徴もある。攻撃参加のタイミング、オーバーラップの迫力は自分の良さでもある」とも前向きに認識するが、それでもなお「もっと基礎の技術を上げていかないといけない」と関根。準々決勝で感じたスペインとの違いを次のように語った。
「ああいうトップレベルの試合になってくるとそういうところが出る。スペインにはトラップ・パスで剥がされることが多かった。個人で剥がされるより、チームで崩されるシーンが多かったので、一人一人の技術はもっと上げていかないと自分はこの先もっと上に行けないと思った。そういうところをこだわってやっていきたい」
また守備では2つのミドルシュートを叩き込まれたMFフェルミン・ロペス(バルセロナ)の衝撃を間近で味わった。
「打たれた瞬間は正直、大丈夫かなという感覚もあったけど、そういうシュートがワールドクラスになると簡単に入ってしまう。自分も2失点目の部分で、もう一歩前に出ていたら身体に当てていただろうし、一歩のところをこだわらないとすぐにやられてしまうと感じた。今後も気を付けていきたい」
そうした欧州トップリーグの所属選手は関根にとって「普段、映像でDAZNとかで見ている選手たち」。だからこそ、この五輪は日常のレベルを上げていくことの必要性、すなわちヨーロッパ移籍の必要性も感じる機会ともなったようだ。
「日本でもいい経験をさせてもらっているし、レイソルでの期間がなかったらここにも来られていない。すごく日頃の練習からレベルが高いので、すごく刺激はもらっていた。でもこういう世界の舞台を経験したらもう一つ上のレベルの選手がいると感じた。ビッグクラブでやっている選手がゴロゴロいたし、そういう相手とやったことで、もっと限界以上のものがこういう相手とやっていたら出せるんじゃないかなと思った。そういう目標は強くなったと思う」
そうしたキャリア選択は、今大会で思いを強めたA代表入りの行方も左右しそうだ。A代表の右SBには現在、プレミアリーグにステップアップしたDF菅原由勢(サウサンプトン)、初の海外挑戦を果たしたDF毎熊晟矢(AZ)が君臨しており、サブにも食い込んでいくのは難しい状況。そのステージに立つためには、所属リーグのレベルも上げる必要があるのが現実だ。
「そういう選手を追い越していくためにも日常のところを変えていかないといけない。レイソルでも引き続きもっと意識高くやっていく必要があるし、自分も海外でプレーしたいというのはずっと思っているので、もしチャンスがあったら早く行って、菅原選手、毎熊選手たちに肩を並べられるように、追い越していく選手になれるようにやっていきたい」
パリ世代初招集から1年余りで五輪舞台に立った21歳。次なるシンデレラストーリーは2年後の北中米W杯だ。
(取材・文 竹内達也)
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