「あいつを怒ったんです」名将・古沼貞雄の指示を無視した現役Jリーガーとは? 高校サッカー名将対談【後編】
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「人間って人に言われた通りやっていると限界があるかもしれない」

 

 

2003年まで帝京高を指導した古沼氏。選手権では6回の王座を勝ち取った。写真:サッカーダイジェスト

 

 今年もいよいよ高校サッカー選手権の季節が到来。『サッカーダイジェストWeb』では優勝監督として大会の歴史に名を刻んだふたりの名将、元帝京高サッカー部監督の古沼貞雄氏と元流通経済大柏高サッカー部監督の本田雄一郎氏による対談を企画した。高校サッカーの酸いも甘いも知り尽くした重鎮たちによる、エピソード満載のクロストークをご覧あれ。

 

――◆――◆――

 

――本田先生は以前から技術を重視し、とりわけワンタッチパスにこだわった指導を続けてこられましたね。

本田「いじる(キープ)のも大事ですけど、なにを目指すかというと、究極のワンタッチ。練習で、ワンタッチでパスしてごらんっていうと、サッカー経験者でも続けるのは難しい。それをツータッチ、スリータッチなら小学生でも100回くらいは続けることはできる。それだけワンタッチは難しいプレー。古沼先生もずっとワンタッチにこだわっていらっしゃった。生徒たちは「なんで?」って言うんです。やっぱり持ちたい。ふだんからそういう練習しているからね。ワンタッチのために、一番すごいプレーをするために、そういうボールいじりの練習をしているんだよ、と説くのはけっこうたいへんでしたね。もちろん、持っていいところもあるけど、持っちゃいけないところもある。その辺は状況判断、ということになるんですかね」

 

古沼「いま名古屋にいる金崎っているじゃないですか。あいつが滝川二高の時にね、エース格でいたときに指導を頼まれて行ったんですよ。その中で、『いまからワンタッチ』って言って練習を再開したら、あいつはね、持ったんですよ。持って切り返してね。それで、あいつを怒ったんです。『おれ、何て言った、ダイレクトでやれって言ったろ』って。そしたらあいつね、高校2年生だったですけどね、『先生そんなこと言ったって、いまのはダイレクトなんかで蹴れませんよ』なんて言う。『蹴れるかどうかじゃない、ダイレクトで蹴れって言ったんたんだ。失敗したっていいんだ。やれって言ったことをやれ』って、たしなめたことがあったんですけどね、そういう奴が伸びていくんですよ。

 

 面白いもんでね。人間って人に言われた通りやっていると限界があるかもしれない。経済界でもなんでもそうなんじゃないですか。その辺に課題があるかもしれない。こういう風にしてやってみろ、と言っても逆らう奴、そういう子っていうのは、選手の才能としては面白いと思う」

本田「だって、われわれもそうじゃないですか。逆らってばっかりで(笑)。振り返ってみるとね」

古沼「その後、日本代表の練習を見に行った時に、習志野の秋津グラウンドで再会したんですが、僕の姿を見たら、とんでもないところから走ってきて、『先生、しばらくです』って。『お前大人になったなあ』って言って褒めましたけどね。『おい、ダイレクトやれ!』って言ったら、『勘弁してください』なんてね。そんな子だったですよ(笑)」

 

「サッカーの中から人間性を学んでいくということは、たくさんあると思います」

 

流経大柏では2007年度の選手権優勝をはじめ5回の全国制覇に導いた本田氏。写真:サッカーダイジェスト

 

――やはり、指導者の言葉に素直に従う生徒ばかりではないですよね。

 

古沼「結局、そういう子はサッカーが心底好きなんですよね。年端もいかない時には、サッカーを楽しもうという気持ちも強いでしょうし。一所懸命やっているんだから、仮に今日来た指導者がああだこうだと言っても、俺はこっちのほうがいいと思う、という考えを持つのは子どものころは、いいと思いますよ。だからそういう面で、僕はよく言うんです。『おまえ閃きっていう字を書けるかって。閃きっていう字は、門に人と書く。門っていうのは家のことなんだ、人が家の中に入っている時、隙間が見える。それが閃きって言うんだってね。そういう話までしてやるんですよね。

 

 自分で言うのはなんですが、なるべく言いっ放しにしない、ようにしています。大人になって離れていく時でも、残るように、いろんな話をしています」

 

――もちろん、サッカー選手にとって技術は大切ですが、人間的な教育も大切なことだと感じます。

 

古沼「最後は、人間性がすべてじゃないかな。技術、戦術は二番手、三番手だと思う。人間性、アイデア、才能は大事ですよね」

 

本田「100人いたら、サッカーで一生飯を食える人というのは、どうかな、1人いるかどうか。99人は社会にいずれ出ないといけない。けっこう日本の社会って、サッカーの世界にくらべて生きていくのは難しいと思う。サッカー自体が海外から来たものですし、その特殊な日本社会の中に、ポツンと何か違うものが入ってきた。だから、すごく日本社会に溶け込むのはものすごく難しい種目でもあるな、とも思っているんですけど、その中で学んでいくと、結構日本社会の中にずばずば入っていけるような、これ通用するなと思うことがいっぱいある。だから私の指導者だった仲間たちの中にも、たくさんリーダーがいる。サッカーの中から人間性を学んでいくということは、たくさんあると思います」

 

◆古沼貞雄(こぬま・さだお)
1939年生まれ、東京都出身。1964年に帝京高の教員となり、翌年よりサッカー部監督に就任。全国優勝は、選手権6回、インターハイ3回を数える。2003年で退任し、以降は東京Vユースや流経大柏でアドバイザーを務め、08年からは矢板中央のアドバイザーとして活躍している。

 

◆本田裕一郎
1947年生まれ、静岡県出身。1975年に市原緑高のサッカー部監督に就任し、その後習志野高ではインターハイ優勝を経験。2001年に赴任した流経大柏高では、選手権、インターハイ、高円宮杯で通算5回の全国優勝を飾った。2020年からは国士舘高校でテクニカルアドバイザーを務めている。

 

取材協力●
競技の問屋合同会社
https://kyoginotonya.com/

 

構成●編集部

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